マサアキさんはその後もいくつかの会社の一般雇用枠で働いたが、いずれも短期間で退職。フォークリフトの運転中に商品を壊したり、製本用のテープをまっすぐ貼ることができなかったりして、叱責され、パニック状態になる。仕事に慣れるとミスはなくなるが、結局は社内に居場所がなくなり、自ら辞めるということを繰り返した。
1年ほど前に初めて障害者雇用で就職。メンタルは落ち着いたが、手取りで約15万円あった月収は約11万円に減った。
マサアキさんが診断前に受けた知能検査では、言葉で説明、思考する力を測る「言語理解」の数値は高かったが、聞いた情報を記憶、整理する力を測る「ワーキングメモリ」や、視覚で得た情報を処理する速さ、正確さを測る「処理速度」の数値が低かったという。
“負の連鎖”の先に待つもの
発達障害の特性はまちまちだ。ただ私が見聞する限り、このような傾向のある人は、メールなどの文章でやり取りすると、わかりやすく自身の考えや思いを伝えてくれることが多い。一方で面と向かって話をすると返事に時間がかかったり、言葉に詰まったりすることがある。ただしばらく待てば必ず的確な答えが返ってくる。
ところが、貧困の現場を取材していると、判断や返答に少し時間がかかるという理由で会社組織から排除される発達障害の人はとても多い。彼らは転職を繰り返す中で自信をなくし、うつ状態になり、障害者雇用に切り替える。しかし、その給料だけでは生活できないので障害年金を受給する、という“負の連鎖”に陥りがちだ。
連鎖の先に待つのは、貧困層の増加や生涯未婚、少子化、社会保障制度への影響といった問題である。日本は人手不足だと言われているらしいが、こうした人材まで排除すれば人手不足にもなるだろう。いったい“誰得”なのだろうか。
マサアキさんのことに話を戻そう。今、マサアキさんには悩んでいることが2つある。ひとつは再び一般雇用で働くかどうか、もうひとつは障害年金を申請するかどうか。
障害者雇用は最低賃金水準がほとんど。中でも最賃が低い沖縄では、自活はまず無理だと、マサアキさんは言う。とはいえ一般雇用で働いても同じことの繰り返しではないか。私がそう指摘すると、マサアキさんはしばらく黙り込んだ後、自らに言い聞かせるように答えた。
「今は服薬の効果が出ていますし、仕事に慣れさえすればミスは減ることもこれまでの経験でわかりました。叱責や怒声にはなんとか耐えるしかありません」
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