廷瑀氏は2016年、彰化県にある大学の造形芸術学部を卒業した。卒業後は大学で培ったデザインの知識を生かし、台北でネットコマースの会社に就職。2018年に故郷である台東県鹿野郷に戻り、2019年に自身のブランド女兒不懂茶を立ち上げる。
茶葉を栽培しているのは、現在31歳の廷瑀氏と、廷瑀氏の父である林潮意(リン・チャオイー)氏。潮意氏はかつて台湾西部の新竹県で茶園を営んでおり、28歳で日本の農林水産大臣賞に相当する「神農賞」を受賞したほどの“匠”だ。
ところが、台湾最長の高速公路である国道3号の建設工事に伴い、茶園が用地買収の対象となってしまう。
茶園をすべて失うことになった潮意氏は、「もう一度自分が理想とする茶を作りたい」と一念発起。理想とする環境を求めて台湾各地を巡り、1989年、鹿野に土地を購入した。以来、ここで完全無農薬のお茶を栽培する。
2018年に故郷に戻り、父に師事した廷瑀氏は、25歳の若さで「台東製茶コンテスト」の最優秀賞を獲得。2022年には台湾全土を対象とした「第1回茶道藝美學薪傳賞」でも最優秀賞を獲得した。
蜂蜜のような甘い香りの烏龍茶
取材に先立ち、廷瑀氏が淹れた「蜜香有機紅烏龍」を飲んでみる。
蜜香とは、ウンカという小さな虫に噛まれた茶葉がファイトアレキシンという物質を作り出すことで醸し出される、蜂蜜のような甘い香りのことを指す。
「熟したマスカットのような香り」と表現されることもあり、紅茶業界では「マスカテルフレーバー」といわれている。この香りをまとっている紅茶としてよく知られているのがダージリンのセカンドフラッシュだ。


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