多様性を尊重するリベラル政策が進む台湾。その背景には安全保障と少子化をめぐる社会の危機感もある。

日本における台湾の政治・経済に関するイメージはどのようなものだろうか。かつては日本の植民地だったが東日本大震災で200億円超の義援金を送ってくれた親日国、TSMCをはじめとする世界の半導体や電子機器産業をリードする科学大国などが広く知られているだろう。
台湾への関心が高まる中、約7割もある高い投票率や議会での30秒審議に反発して起きた「ひまわり運動」など市民の積極的な政治参加、国会での女性議員比率が4割超という性的多様性の高い社会ということも知られてきた。
ただ、日本で台湾を取り上げる際には、上記の要素の中で論者にとって都合のいい側面を取り上げて論じる台湾評が多いように感じる。特定の事象に台湾を代表させた評論は、実態とは異なる台湾イメージの流布につながる危険もある。
筆者の専門は外交・安全保障であるが、本稿ではその専門から見た血の通った台湾評論を前後編で行ってみたい。前編では、日本やアメリカよりも総人口に占める兵力の割合が多い台湾が、少子化に歯止めをかけられず兵力維持の試練に直面する中、無国籍児に台湾籍を認める国籍法改正や、同性婚の合法化などの策をとってきた側面に注目する。
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台湾の音楽と聞いて、DJ OZMAの『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』(原曲は、台湾の歌手アレックス・トゥ(杜德偉)の『TAKE OFF』で、同曲は韓国のヒップ・ホップグループDJ DOCの楽曲『RUN TO YOU』のカバー)を連想しても、クラシック音楽を連想する人は少ないだろう。
台湾には17世紀のオランダ支配下で宣教師によって西洋の音楽がもたらされた。清朝統治下でも欧米列強向けに開港した港の周辺に教会が建設され、台湾での西洋音楽の普及に寄与した。日本の植民地支配下でも学校の授業で西欧音楽の教育が行われている。
台湾出身で世界的に活躍するクラシック音楽家は少なくない。ピアニストのチェン・ルイビン(陳瑞斌)は、16歳の時にラフマニノフ国際コンクールで入賞。バイオリニストのツェン・ユーチン(曾宇謙)は、20歳のときチャイコフスキー国際コンクールで最高位を獲得した。
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