有事論ばかり注目されて論じられる台湾だが、社会状況や歴史など多様な視点がなければ理解不足だ。

前編では、総人口に占める兵力の割合が日米両国に比してかなり多い台湾が、兵力を維持するために、多様性の高い社会を実現してきた側面に注目した。
後編では、今年2月に台湾を訪問した際の体験も交えつつ、引き続き血の通った台湾評論を試みたい。台湾訪問の目的は勤務先の大学生を引率して台湾について学ばせる授業の実施だった。私が3歳の子どもを帯同したこともあり、現地の専門家との交流の場では少子化関連の話題が多かった。そうしたこともあり本稿では、台湾の少子化の環境要因について触れたい。
結婚・出産よりまず住宅購入
学生を引率し、かつ3歳児を連れて台湾研修に行くとツアー会社の担当者に話したところ、「私も3歳の男の子がいて、暴れん坊すぎて海外に連れていく自信がないよ」と言われた。私も同様でまったく自信がなかったが、杞憂だった。
台北市は地下鉄のほぼ1駅ごとに公園がある。どの公園も子ども向けの遊具が充実し、しかも日本のものより色もデザインもかわいい。私と学生がオフィスや大学を訪問している間、子どもは同行した夫と一緒に嬉々として公園で遊んでいた。
2014年のクリスマスに台北市長に就任した柯文哲氏は、少子化対策の一環として市民とりわけ子どもの声を取り入れて公園改修を進めたとされる。柯氏は台北市長を2022年までの2期務める傍ら「台湾民衆党」を結成。任期満了で市長を退任すると、2024年の総統選出馬に向けて子育て世代向けの政策をインターネットやSNSを通じて発信し、多くの若者の支持を獲得する。
民衆党は2024年の総統選と立法委員選で、住宅価格の高騰などによる子育て世代の経済的不安を強調した。そして防衛の重要性を強調しつつも、蔡英文総統(当時)が選挙のために中国の脅威を過剰に煽っていると批判。政治イデオロギーの対立から脱して経済など身近な生活的課題を重視しようと主張した。
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