本物とニセモノの違い 植物生態学者・宮脇昭氏①

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みやわき・あきら 1928年岡山県生まれ、植物生態学者。(財)国際生態学センター研究所長、横浜国立大学名誉教授。93年まで横浜国立大学環境科学研究センター教授を務める。著書は『植物と人間』(NHKブックス)、『木を植えよ!』(新潮選書)など多数。

私は潜在自然植生という考え方に従って、その土地本来の森林に近い樹種を組み合わせた木々を植える活動を、40年以上にわたって行ってきました。国内1400カ所、中国など海外も含めれば1700カ所もの地域で、計4000万本もの木を植えたことになります。

日本は国土の70%が森林で自然が豊かな国だと思われています。しかし、長年にわたって現場で調べてきた結果、日本人の92・8%が定住している常緑広葉樹林域では、本来の潜在自然植生域がわずか0・06%しか残っていませんでした。

日本の多くの地域で、本来の森林は、シイ、タブ、カシ類といった常緑広葉樹を主とした照葉樹林が中心でした。これらは、深根性、直根性といった特徴があり、自然災害でも倒れにくい。一方、現在の多くの森林は、土地本来の木々ではありません。たとえばスギやマツは育ちやすいのですが、人間の管理が必要ですし、自然災害に対する耐性がそれほど強くないことが多いのです。

「現場、現場、現場」

本物は大器晩成ですが、あらゆる困難でも生き延びる。ニセモノは見た目はきれいですぐ育つのですが、ちょっとしたことでダメになりやすい。もちろん木を植えることにはさまざまな目的があります。木材生産のためにスギ、ヒノキ、マツなどを植えることも大事です。私は災害から命を守り、エコロジカルかつ生物を育む基盤として、潜在自然植生に基づいた森林を先見性のある企業や行政、市民とともに作っています。

 その地域にどんな自然植生が育つ潜在能力があるのか知るためには、「現場、現場、現場」です。机の前で自然を知ることはできません。

神社などにある木々は、古来より人間が手を入れることを禁じられてきました。その結果残された「鎮守の森」が、潜在自然植生を調べる有力な手掛かりとなります。「鎮守の森」に残されたシイ、タブ、カシなどの木々を調べ、潜在自然植生の主木群を決める。主木群を中心に、主木を支える30~50種類の木々を混植・密植するのが、自然のシステムに沿った私の植樹活動です。

潜在自然植生という考え方は、30歳の頃2年間ドイツに留学し、恩師チュクセン教授に学んだものです。「若い者には、二つの種類がある。一つは見えるものしか見ようとしないやから。こいつらは計算機で遊ばせておけばいい。もう一つは見えないものを見ようと努力するタイプ。おまえはこのタイプだから、現場に出て一生懸命学びなさい」と言われたのを、今でも覚えてます。

週刊東洋経済編集部
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