トップが本物なら子分も本物 植物生態学者・宮脇昭氏④

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みやわき・あきら 1928年岡山県生まれ、植物生態学者。(財)国際生態学センター研究所長、横浜国立大学名誉教授。93年まで横浜国立大学環境科学研究センター教授を務める。著書は『植物と人間』(NHKブックス)、『木を植えよ!』(新潮選書)など多数。

命を守り遺伝子をつなぐためには、経済も必要です。今だけ儲けて来年ダメになるというのではなく、厳しくても明日儲けるための種をまくこと。そういう努力を続けていくべきです。ところが、今は経営者も総理大臣も、自分の任期の間だけなんとかごまかすことができればいいという傾向が目立つ。企業は短期的な利益のため資産を食い潰し、日本政府は借金を積み重ねています。とかく問題に目をつぶり、解決を先送りする。こんな卑怯(ひきょう)なことはありません。

植物の世界では、トップが本物なら子分も本物です。主木に自然植生でないニセアカシアなどを植えるとすぐ育ちますが、その下草には自然の植生とは違ったニセモノしか育たない。そうなると、管理しなくてはその森はダメになる。一方、潜在自然植生に合った本物の木を主木に植えれば、管理しなくてもいい森に育つ。会社もそうだと思います。

本物の森を日本から世界に発信したい

戦後、日本が発展できたのは、本物の経営者がいる企業の努力の賜物です。私の植樹活動も、新日本製鉄や三菱商事、トヨタ自動車など100社以上の協力を得ています。

 最初に一緒に植樹の取り組みをしたのは、新日鉄でした。1970年に経団連で講演をした後、環境管理室長が「協力してほしい」と電話をかけてきた。私は助教授でしたが、当時、公害の元凶かのようにいわれていた大企業と仕事をしたら、下手をすればクビになる時代。しかし、その方を信じて「一時的な公害対策ではなく、あなたが本気でやるなら、研究生命を懸けてやります」ということで始まりました。

今でも覚えているのは、大分製鉄所で植樹活動をして、夜、その方と一緒にスナックに行ったときのことです。周りの女の子に「私は『この人だ』と信じて裏切られたことがない」と言ったら、「私たちは人を信じてもいつも裏切られてる」なんて反論された。しかし、私は83歳になった今でも、裏切られたことがありません。ニセモノを相手にしないからかもしれませんね。

新日鉄の植樹活動は40年以上も続いており、国内の敷地に私たちの植えた木が根付いています。

経営者の皆さんは、日本のためにも、今後も植樹活動を続けてほしい。日本人は前向きにやるポテンシャルを持っているのですから、現場の人たちの頭を押さえないで、やりたい人には思い切ってやらせることも大事です。私もこれからもずっと命懸けで、本物の森を日本から世界に発信したいと思っています。

週刊東洋経済編集部
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