iモードの元となるコンセプト

NTTドコモ元会長・大星公二氏①

おおぼし・こうじ 1932年生まれ。57年、東京大学法学部卒、日本電信電話公社(現NTT)入社。88年NTT取締役、90年同常務。92年NTTドコモ社長、98年同会長。現在は北海道地域イノベーション推進会議シニアアドバイザー、ジェムコ日本経営特別顧問など。

誕生時のNTTドコモは、売り上げ規模はNTTグループの3%程度で赤字。NTTで自動車電話や携帯電話を10年以上販売していたが、ほとんど売れておらず、携帯電話の普及率は1%程度だった。

安定したNTTからちっぽけな赤字会社に移った社員は不安に思っていた。ただ、私は携帯電話が売れないはずがないと確信していた。社会が豊かになると人間の行動半径は必ず広がる。そうするとすき間の時間は増えるはずだし、出先から連絡する必要もある、コミュニケーションの欲求が高まるからだ。

加入者から寄せられた苦情処理票を自ら読み込んでマーケティング理論で分析すると、「つながらない。すぐ切れる」という不満が圧倒的に多いことがわかった。自動車電話からスタートした携帯電話は、無線基地局が道路沿いにしかなく、面のカバーが弱かった。すぐに「予算は青天井でいい」とネットワークを張り替えさせた。

トップに求められる“コンセプチュアルスキル”

高額だった端末保証金を廃止、加入料や通話料金を引き下げたら、価格弾性理論どおり需要は爆発した。端末販売をドコモの直販体制から代理店方式に切り替えた。持っている知識を最大限使ってドコモを急成長させた。

 携帯電話はどんどん売れるようになったが、携帯電話そのものは水道の蛇口でしかない。ネットワークは水道管のようなもので、それ自体には何の付加価値もない。いずれ蛇口が行き渡ってしまえば、市場は飽和して、ドコモの成長も止まる。

そうならないために、水=情報を処理して付加価値をつける必要がある。そう考えて「ボリュームからバリューへ」と経営戦略の転換を打ち出した。

パソコンはどんどん小さくなって携帯電話の中に入る。付加価値の低い音声通信から、潜在ニーズが大きく付加価値の高い情報・知識・エンターテインメントを流通させて、携帯電話で楽しむという「モバイル・コンピューティング」というコンセプトを打ち出し、それが実現できるようにネットワークをパケット通信対応に切り替えた。

このコンセプトから生まれたのがiモードだ。現場の人間が2年半かけて使いやすいものを作った。

社会学者のエズラ・ボーゲルは、トップに求められるスキルは“コンセプチュアルスキル”だと言っている。企業が継続的に成長するにはイノベーションが必須。そしてイノベーションを生むために、トップがコンセプトを示す必要がある。

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 憧れから一歩前へ! キャンピングカーのある日常
  • 映画界のキーパーソンに直撃
  • ソロモンの時代―結婚しない人々の実像―
  • iPhoneの裏技
トレンドライブラリーAD
人気の動画
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「人のために働く職業ほど低賃金」な根深い理由
「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則
「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則
渋谷駅、谷底に広がる超難解なダンジョンの今
渋谷駅、谷底に広がる超難解なダンジョンの今
「話が伝わらない人」と伝わる人の決定的な差
「話が伝わらない人」と伝わる人の決定的な差
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
激動相場に勝つ!<br>株の道場

6月18日発売の『会社四季報』夏号が予想する今期業績は増収増益。利益回復に支えられる株価が上値を追う展開になるか注目です。本特集で株価が動くポイントを『会社四季報』の元編集長が解説。銘柄選びの方法を示します。

東洋経済education×ICT