「トランプ再び」を機にアメリカ信仰からの脱却を 「グローバル化の終わり」の先にある2つの方向

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しかし一方、このテーマはもう少し複雑な別の論点を含んでいる。すなわち、以上とは別の意味で「グローバリゼーションの限界」や矛盾がさまざまに見え始めているのが現在の世界であり、今後はむしろ「ローカリゼーション」が重要となり、かつそれが進んでいく時代を迎えているのだ。

つまり環境問題などへの関心が高まる中で、「地産地消」ということを含め、まずはローカルな地域の中で食糧やエネルギー(再生可能エネルギー)等をできるだけ自給し、かつヒト・モノ・金が地域内で循環するような経済をつくっていくことが、地球資源の有限性やエコロジー的な観点からも望ましいという考え方が広がり始めている。

私が見るところ、こうした方向がかなり浸透しているのはドイツや北欧などの国々であり、これらの地域では「グローバル経済からまず出発してナショナル、ローカルへと降りていく」という具合に考えるのではなく、むしろ「ローカルな地域経済から出発し、ナショナル、グローバルと積み上げていく」という社会の姿が志向され、実現されつつある。

ナショナリズムとローカリゼーション

したがってやや単純化して対比すると、「グローバル化の終わり」の先の姿には大きく異なる2つの道があるのだ。

1つは“「強い拡大・成長」志向と一体となったナショナリズム”としてのそれであり、トランプ政権はまさにこれである。

もう一つはここで述べている「ローカリゼーション」であり、それは上述のように環境ないし持続可能性、コミュニティ、再分配等を重視しつつ、ローカルな経済循環から始めてナショナル、グローバルへと積み上げていくという姿である。

こうした方向は、先述の「持続可能な福祉社会(sustainable welfare society)」という社会像とそのままつながるし、私自身はこれからの地球社会の持続可能性や人々の幸福(ウェルビーイング)のためにはこの方向以外ないと考えている。

まとめよう。本稿ではトランプ政権の意味するものという議論から始め、アメリカ社会の特質と問題性、アメリカとロシアの対立の背景、「グローバル化の終わり」の先にある2つの方向といった話題にそくして私見を述べてきた。

トランプ就任を機に私たちが考えていくべきは、「アメリカ信仰」からの脱却そしてここで論じてきたような、これからの地球時代における新たな社会像の構想なのである。

広井 良典 京都大学 人と社会の未来研究院教授

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ひろい よしのり / Yoshinori Hiroi

1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務後、96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。著書に『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞、岩波新書)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など。

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