できる人ほど「仕事の道具選び」に妥協しない理由 「よい道具」は使い続けることで進化していく
「尖」は、尖ってまとまりのある穂先のことです。先が尖っている筆は全体のまとまりがよく、穂先の動きを調整しやすくなります。特に細筆を使う際は、この穂先の形状が極めて重要になってきます。
「斉」は、きれいに整った穂先を意味します。穂先の毛がきれいに整っていると、多くの墨をまんべんなく含ませられます。反対に、はみ出した毛があったり、毛が縮れていたりすると、余分な線を引いてしまうおそれがあります。
「円」は、全体が均等に円錐状になった穂のことです。円錐状だと適切な墨の量で滑らかな線が書けるようになります。さらに、穂割れを防ぐ効果もあり、運筆も滑らかになります。
「健」は、程よい弾力を持った穂を指します。筆に適度なコシと弾力があると、筆圧の加減で穂先の動きがしなやかになり、「とめ」「はね」「はらい」の表現を自在にすることができます。
これらの「四徳」がバランスよく備わった筆を選ぶことで、書き手の技術を最大限に引き出し、より豊かな表現が可能になります。
友人が通う稽古場では、馴染みの筆屋さんが訪れて、これらの基本を備えたよい筆を勧めてくれるそうです。しかし、その中からさらに「これ」という毛先のものを選んでも、以前に使ってよかった筆と同じように見える筆を選んでも、実際には使ってみないとその特性は分からないのだとか。
このことから、筆を選ぶのがいかに難しく、また道具と使う人との相性がどれほど重要か、がよくわかります。実際に使って対話することが大切なのです。
道具は成長する
興味深いのは、筆を選んだ後の育て方です。毎日書を書いて使いこむことで、筆は書き手と馴染んでいき、まさに「自分だけの筆」へと変化していくのだそうです。
友人の経験によると、新しい筆には独特の「成長過程」があるようです。最初のうちは、穂先の毛の量が多いため、使いにくい点がいくつかあります。たとえば、墨を必要以上に含みやすく文字がにじみやすいことや、余計な細い線が出やすいことがあるそうです。
しかし、使い込んでいくうちに興味深い変化が起きます。毛先が適度に摩耗して筆の芯の毛だけが残ってくると、むしろ書きやすくなるのだそうです。
これは、余分な毛が取れることで墨を適量含むようになり、同時に穂先が跳ねすぎなくなって不要な細い線も出にくくなるからです。
この変化によって、筆は次第に扱いやすくなっていくのです。このように「自分の筆」になった筆は、何年も手入れして大事に使い続けているといいます。
道具と関係をつくることは、技術を向上させるためにも、感性を磨き上げるためにも重要です。
みなさんは仕事でどんな道具を使っていますか? オフィスワーカーの方も、マウス、キーボード、デスクチェア、スーツ、鞄……。欠かせない道具があると思います。
日本文化の道具を大切にする考え方に学びながら、道具の選び方、道具との付き合い方を見直すと見える景色も変わるかもしれません。
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