できる人ほど「仕事の道具選び」に妥協しない理由 「よい道具」は使い続けることで進化していく
このように道具を大切にすることは、道具への感度を高め、やがて道具が自分の体の一部となって、より高度な技を可能にしていくのです。
イチロー選手のこの思想は、野球に限らずさまざまな分野に適用できる、日本文化に根ざした普遍的な考え方といえるでしょう。
優れた道具は、その使用感や使用した時の効果を十分に考慮して作られています。自分の現在の技量よりもやや高度な道具を使用することで、新たな学びや成長の機会を得られるのです。
また、優れた道具は使い手の技量を映し出す鏡のような役割も果たします。同じ道具でも、使い手によってまったく異なる表現が可能になるのは、まさに道具と人との深い対話があるからです。
道具は単なる物体ではありません。書道の筆や墨、茶道の茶碗や茶筅、剣道の竹刀など、それぞれがかけがえない自然から生まれた文化や技の結晶です。
よい道具を選び、道具に聞くことで、技が磨かれ、同時に使用者の技術に応じて、道具も進化していくのです。
「弘法は筆を選ばず」は正しいのか?
ここでは、稽古における道具の重要性について、ある友人から聞いたエピソードをご紹介したいと思います。
大人になってから書道の師について稽古を始めた経験は、道具と技術の関係性について多くの気づきを与えてくれます。
「弘法は筆を選ばず」ということわざがあります。
これは、名人であれば道具の良し悪しに関係なくすばらしい作品を生み出せるという意味です。しかし、実際に書を稽古する場合には、この言葉とは逆で、適切な道具を選ぶことが上達につながるそうです。
書では、「文房四宝」と呼ばれる紙・筆・墨・硯(すずり)が、不可欠な4つの基本的な道具として知られています。それぞれが、書の表現に大きな影響を与えます。
筆は書き手の第二の手となる重要な道具です。
なかでも、友人が学んでいる和様の書は、その繊細さゆえに筆選びが特に重要です。小さく細い字体を正確に表現するためには、自分の筆の動きと筆の特性の相性を見極め、まるで一体となるように使いこなすことが求められます。
筆を選ぶ際の基準として、古来中国から伝わる「四徳」という考え方があります。これは現代でもよい筆の条件とされており、「尖(せん)・斉(せい)・円(えん)・健(けん)」の4つの特徴を指します。それぞれの意味を簡単に説明しましょう。
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