進学校の子の親ほど「子供の将来」に苦しむ矛盾 「将来への備え」という現代病にかかっている
井本:親も考えていないわけではないんだろうけど、現実から目を逸らしているところはありますね。それでも、勇気を持って現実を直視してもらいたい。
「将来への備え」という現代病
井本:大人はどうしても「将来への備え」のために、いま何をすべきかという考え方になりがちです。それがエスカレートしすぎていて、もはや「将来への備え」という現代病にさえなっている。集団ヒステリーだから止めようがないです。不確実な未来に備えて、子どもたちのかけがえのないいまを奪うのがよくないことはわかっている。
だけど、みんながやっているから、自分だけ抜け出せない。「自分の子どもにもやらせなきゃ」と無理やり思い込む。大人のパニック状態に、子どもが付き合わされているんですね。
鳥羽:そして教育産業が親の不安につけ込んで親子を囲い込むことで、教育の世界は悲惨なことになっている。どの業界でもそうでしょうけど、資本主義が行き詰まって、もう差異なんて簡単には創出できないからと、不安を煽って稼ぐ人が増えているように思います。不安は儲かりますからね。「将来への投資」とか言うけど、あんなの根拠はまったくない。
井本:教育産業は、約束した結果を出さなくても訴えられないですからね。逆に、いもいもは「結果を保証します」という契約じゃなくて、思いに共感してもらってるから、うまくいっているのかもしれません。思いというのも、「その子がいまそこにいるのに、その子のままでダメなはずがない」ということです。キラキラしてる子どものいまを見られるから、親も自然と納得してくれるんじゃないかな。
鳥羽:「将来の不安」のように、親の心配を子どもが内面化する現象はあらゆるところで起こっています。我が子を少しでも大切にしたいと、何でも先回りして傷つかないように配慮する親が増えたし、社会全体もそれが善であるという方向で進んでいる。
でも、そういう心配や配慮を内面化した子は、自分で生きる力をどうやって手に入れたらいいのか、と。
井本:いまの教育は「備えあれば憂いなし」で、手持ちの武器をできるだけ増やしていこうとしますよね。でもそのせいで、いまある手持ちでなんとかする「思考力」がやせ細っていると感じます。
子どもたちを見ているとね、むしろ手持ちが少なければ少ないほど自分を発揮せざるをえないなというのがわかるんですよ。暗記した公式に頼らず、自分の頭で考え抜いたとき、その子自身も知らなかったような自分がふっと顔を出す。教員をやっていて、その瞬間に立ち会うことよりおもしろいことはありません。子どもたちが手探りで、「あーでもない、こーでもない」とやり出すために授業をデザインしているんです。
いもいも教室主宰/栄光学園数学科講師
1969年生まれ。栄光学園中学高等学校を卒業後、東京大学工学部進学。卒業後は母校である栄光学園の数学科の教員になる。長年、生徒とともに児童養護施設で学習ボランティアを続けているほか、フィリピンのセブ島でも公立小学校や施設での学習支援活動を続けている。2019年より思考力教室「いもいも」に軸足を置く。
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