進学校の子の親ほど「子供の将来」に苦しむ矛盾 「将来への備え」という現代病にかかっている
そこで可能性を持つのが塾だと僕は思ってるんですよ。塾は受験に特化していると思われているけれど、そういうところばかりではない。覚悟さえ持てば、学校よりも自由度の高い、思い切った学びができる。だからこそ、塾の先生が子どもを救える可能性はかなりあると思っています。
鳥羽:まさに塾には学力を伸ばすと同時に、そういう役割があると僕も思います。ちなみに僕は受験に対しては、子どもたちに「本気だけど半笑いで」というスタンスを取ることを意識させています。一生懸命にやるんだけど、一方で「こんなの人生の本番なんかじゃないからね」「勉強ができるからエラいわけではないよ」って。そういうメタ視点を手に入れた勉強熱心な子たちが勉強をやらなくなるかと言えばまったくそうじゃない。それもおもしろいところで。
受験前に取り乱す親たち
鳥羽:でも、いくら「半笑いで」と言ったところで、そんな言い分が通じない熱心すぎる親というのは一定数いて、そのプレッシャーに子どもは潰されてしまう。もう、ひとたまりもないですよ。
受験前になると、件名に「鳥羽先生、助けてください」という件名のメールが届くようになります。件名を見るたびに心臓が縮み上がります。本人ではなくお母さんを落ち着かせるためのケアをすることは珍しくありません。それは仕事外のことと言われそうですが、お母さんが落ち着かないと本人がダメになっちゃうから仕方がないですよね。
井本:いやぁ、大変だなぁ。
鳥羽:なぜ親がそんなに不安になるかと言えば、自分自身が勉強というものをよくわかっていなくて自信がないからでしょうね。わかっている親はもうちょっと余裕がある。
でも、「あなたは自分がまともに勉強したことないから、よくわからずに混乱しているんですよね」なんて面談ではっきり言えないじゃないですか。いつまでもがんばらないように見える我が子に業を煮やしたのか、「うちの子はもう、受験自体、諦めたほうがいいんでしょうか?」と唐突に極端な結論を出そうとする親もいます。そんなときは、少し冷静になってもらうよう促すことしかできません。
子どもの現状を打破するために、親と向き合う以外の方法がないケースが本当に多いです。正直に言えば、できることなら僕は子どもたちとだけかかわっていたいけど、そういうわけにもいきません。
井本:自分が手にしてるものの価値を、自分で吟味できることが自立だと思うんだけど、お父さんお母さんでもそれができている人は少ない。「そもそも生きるってなんだろう?」という哲学は、親にも必要ですね。
鳥羽:本当にそのとおりです。自信がない親というのは、自分なりの価値基準を持っていない人です。「少しでもいい大学に行ってもらえたら」と発言する親と話してみると、その親だってその価値観を盲信しているわけでもない。ただ、自分の価値基準がないから、そこに拠っているだけなんです。そういう意味でも、大人も勉強して新しい世界を発見すること、自分なりに考え続けることは大事ですね。
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