ダヴ「ルッキズムに異議」が皆の怒りを招いた根因 「啓発キャンペーン」がなぜ批判されてしまったのか
今回物議をかもした広告も、上記の流れの中で位置づけてみると、自然な展開であるようには見える。文脈を知っている広告業界の人が見ると、この広告に問題があるとは思わないのではないかと思う。
ただし、日本の一般の消費者の人からしてみると、やはり違和感を抱いてしまうものだったのではないかと思う。
ダヴ社は、自社のXアカウントから「#カワイイに正解なんてない」を付けてリポストすることを呼びかけたが、これも批判意見を増幅させる結果となってしまったように思える。
日本で成功した啓発広告は?
日本でも、啓発型の広告で称賛を集めた事例がある。ダヴと同様に、渋谷界隈の屋外・交通広告を利用した事例を見てみたい。
総合刃物メーカーの貝印が2020年にSHIBUYA109のビッグボードと東京メトロ半蔵門線の電車内などに掲出した、剃毛・脱毛に関する啓発広告だ。
本広告は、「#剃るに自由を」をテーマにしたコミュニケーションの一環として展開されたもので、腋毛を見せたヴァーチャルモデルのビジュアルに「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーが添えられている。
この広告は、称賛の声が大半で、批判意見はほとんど見られなかった。特定の行動や意見を否定や批判するものではなく、先述した1、2のどちらの要素もなく、人々から受け入れられやすいメッセージだったからだ。
筆者としては、キャッチコピーに「剃るかどうか」ではなく、「ムダかどうか」という言葉を使った点も大きいように思う。これによって、より一般的、普遍的なメッセージになっているからだ。
もうひとつは、2023年にリクルートの結婚情報サービス「ゼクシィ」が創刊30周年を記念して、渋谷駅に掲出した大型看板である。
この看板は、同性カップルや事実婚カップルなどの、マイノリティの複数カップルの写真に、「あなたが幸せなら、それでいい。」というキャッチコピーを添えたものだ。
この広告は、見方によっては挑戦的かもしれないが、渋谷区は2015年に「同性パートナーシップ条例」を施行しているし、渋谷はリベラルな若者層も多いため、その場に馴染みやすい広告だったと言えるだろう。
リアルで広告に接してSNSに投稿していた人たちの大半は、この広告をポジティブにとらえていたように見える。
やはり、この広告も「あなたが幸せなら、それでいい。」というキャッチコピーによって、性的マイノリティの啓発だけでなく、一般的、普遍的なメッセージへと昇華されている。
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