世界で「民主主義」が危機を迎えている根本理由 「民主主義が民主主義を殺す」時代になっている
20世紀後半は世界規模で経済成長が続き、ある程度の豊かな社会が世界すべてではありませんが、いわゆる先進国で生じました。アメリカの政治学者ロナルド・イングルハートは「『脱物質主義的価値観』が政治の次元で重みを増す」と、すでに1977年の時点で主張していました。
『歴史の終わり』で有名なアメリカの政治学者フランシス・フクヤマも『IDENTITY』の中で、トランプ現象や、イギリスのブレグジット(EUからの離脱)の背景にあるものを分析して、経済合理性よりも敵と味方の単純な二分法で「敵だから倒す」といった感情が政治に持ちこまれることを示唆しています。
歴史認識をめぐる紛争も「価値の分配」の文脈で理解できます。現在を、そして未来をめぐって争うのではなく、過ぎ去ってしまった過去をめぐって争う、一見不毛な議論がどこの国でも展開されています。
妥協が困難な価値をめぐる争い
21世紀における国民創造のために不可欠な物語をどうやって再構築すればいいのかということだけではなく、国民創造のために歴史が動員されることを拒否することも含めて妥協が困難な価値をめぐる争いになっているのです。
奴隷制度は19世紀に廃止されました。20世紀前半には女性参政権も実現しました。ところがこれらは人間を奴隷とそれ以外に分けること、男と女に分けることといった、人種主義的な発想に対する反省から起きたものではなく、単に経済的な利益や戦争遂行能力を高めるための要求から行なわれただけであり、「ブラック・ライヴズ・マター運動」の高揚やフェミニズムの運動が続いていることは、19世紀以来の国民国家建設の課題がまだ残されていることをあらわしています。
当然ながら「富の分配」をめぐる問題が解決したわけではありませんが、「価値の分配」が政治の大きな焦点になる中で国民国家としての同質性を保つことが難しくなっているのが現在といえるでしょう。
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