ハードな日々にも慣れてきた大学3年、山下さんは卒業後の再就労をにらんで、大学に通いながらさらに産業カウンセラーの養成講座にも通い出す。
「大学のクラスメートに産業カウンセラーをしている人がいたんです。産業カウンセラーとは、働く人と組織の問題解決を支援するためのカウンセラーで、大学で得た知識を実践で活用できるのはこの道だと、ひらめきました。大変だけど、何かもう一つ積みたいという思いでした」
7カ月の講座終了後、翌年1月の試験に合格。産業カウンセラー資格を取得するが、間髪入れずに今度はキャリア・コンサルタント講座を受講する。
「できれば、転職や再就労に悩む人の背中を押せたらと。たとえば『専業主婦をしてきたけれどもう一度働きたい。でも、私なんか…』と臆している人に、一歩踏み出す勇気をもつお手伝いをしたいと考えたのです」
「50歳は、おばあさんではない」
大学生活後半はダブルスクールをこなす多忙な日々だったが、この4年で心理学の学士、高校教員免許、産業カウンセラー資格、キャリア・コンサルタント資格を手にした。過酷な二重生活をものともせず、母の最期もきちんと看取った。大学を無事卒業し、ゴールした胸に去来したものとは――。
「長い準備期間を終えて新たなスタート地点に着き、『よーい、ドン!』の号令を待つ気分です。日本語教師と企業研修トレーナーはどちらも、根底に心理学やコミュニケーションの知識が必要。産業カウンセラーとしての傾聴力や、キャリア・コンサルタントとしてのキャリア形成支援の知識が役立ち、日々充実しているのを感じています」
これまで、4人の子育ては親として当然のことと、大変さは感じなかった。再就労は自分で選んだ道だから、家事との両立で熱を出し寝込んでも自己責任と引き受ける。50歳のリスタートは、懐の深さがものを言う。
「昔、夫と『50歳になったら海外で暮らそう』と話していたんです。でもいざ自分が50になったら、そんなにおばあさんでもなかった。子どもたちに『あなたたちは人生これからね』って言うと、20歳の二男には『いや、ママのほうが人生これからって感じで、活き活きしているけど』と言われます」
発達心理学によれば、人は死ぬまで成長を続けるといわれ、心理学者のユングは、40歳を「人生80年時代における人生の正午」と位置付けた。40歳はまだ人生の折り返し地点。30代は、まだその手前だ。しかし、女性たちはどうしても、いま目の前のことに思い悩み、立ち止まってしまいがちだ。山下さんはこう言い切る。
「いくつになっても『もう遅い』ということはありません。諦めなければ叶うんです。50代になっても毎日が無我夢中。先のことはわかりませんが、90歳ぐらいまで、日本語を教えながらキャリア・コンサルタントをやれていたら、いいですね」
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