高裁、異例判断「取り調べ検事が被告に」の根本問題 「プレサンス事件」が迫る捜査手法の転換

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さらに補論として、かつて大阪地検特捜部における一連の不祥事を受けて「検察の在り方検討会議」が立ち上げられ、平成23年3月に「検察の再生に向けて」という提言が取りまとめられ、取り調べの録音録画が法制化された経緯などを指摘したうえで、

「今回の事案が、上記のような経緯を経て導入された録音録画下で起きたものであることを考えると、本件は個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えるべきではない。あらためて今、検察における捜査・取調べの運用の在り方について、組織として真剣に検討されるべきである」(同)

と警鐘を鳴らしている。

筆者は弁護士として、刑事事件で被疑者・被告人を弁護する立場の弁護人として刑事裁判に関与してきた。今回の事件を契機に改めて、憲法上保障されている黙秘権の意義、刑事事件の捜査における取り調べのあり方について考えてみたい。

取り調べ依存型の捜査観が招いた今回の事件

これまで長い間、日本では、警察によって逮捕されたら長時間の取り調べが行われることが当然視され、取り調べによって犯人から自白を獲得することが捜査における最重要課題とされ続けていた。その結果、数多くの冤罪事件が生まれてきた歴史がある。

今回の事件における検察官による犯罪的な取り調べも、そのような取り調べ依存型の捜査観が招いた事件ともいえる。

日本国憲法では黙秘権が権利として保障されているが、日本型の取り調べ依存型の捜査は、本来、権利として保障されているはずの黙秘権を軽視ないし無視することにより成り立ってきた。

日本国憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と定めており、これは一般に黙秘権と呼ばれている。警察や検察における取り調べの際にも、当然に黙秘権が保障されている(刑事訴訟法198条2項)。

黙秘権がなぜ犯罪の疑いをかけられた被疑者に保障されているのか、疑問に思う人もいるかもしれない。

犯罪を実際にしてしまったのであれば、正直に罪を認めて洗いざらい話して謝罪、反省をしたほうがいいのであり、また、もし犯罪をしていない、冤罪なのであれば、きちんと自分は無実であることを主張して真実を話せばいいのではないかと考えるかもしれない。

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