人前で話すとき、人は聴衆のメンタライジング能力が自分と同等であると考え、一部の聴衆を混乱に陥れることがままある。
メッセージあるいはその伝え方があまりにニュアンスに富んでいたり、難解であったり、複雑であったり、あるいは逆にあまりに簡単すぎたりすると、信頼を築くことはできない。
非常に深い絆を持つグループでは、各自のメンタライジング能力が高まるため、言葉に頼るまでもないことがある。
整形外科の教授であるジャスティン・コブは、理想的な手術室では麻酔医は尋ねるまでもなく外科医の意図がわかると言う。
看護師も外科医が求めるまでもなく必要な器具を渡せる。手術の途中で確認のために一瞬でも遅れが生じると、生死にかかわる深刻な結果を招く。
それはサッカーやラグビーのノールックパスのようなものだ。選手はパスを出す相手を見るまでもなく相手がどこにいるかを予測することができる。相手が自分の意図を理解できることを知っているからだ。
どういう行動が求められているかを本能的に理解するには、一緒に練習するだけでなく、一緒に学び合うことが大切だ。つまり、先に述べたようなとっさの判断を下す社会的および技術的能力を養う必要がある。
コブによれば、仮想現実(VR)を使用すれば、医師と手術室看護師は学習を速められるという。VRを使った訓練を合同で4セッション行えば、別々に訓練した場合より間違いが減って学習速度が上昇するのだ。
もちろん、ここで示したのは、高度な訓練を積んだ専門職の例ではあるが、私たちはこうした事例にならった訓練によって、驚くほど良好な結果を出すことができる。
人数が増えるとメンタライジングが困難になる
ただしその場合にも、関係する人数を絞ることが前提になる。人数が増えると、メンタライジングは疲労を招き、ついには不可能になる。
ブルー・ベア・システムズ・リサーチのCEOヨゲ・パテルは、防衛、航空宇宙、民間市場におけるイノベーターである。自身の会社を立ち上げたとき、家族のような会社にしたいと心に決めていた。
しかし、社員が11人になったあたりで、これほど多くの人についてメンタライジングするのはとても疲れることに気づいた。すでに自分の能力の限界を超えている。