国連もこうした現状を問題視している。2022年9月に日本政府へ出した障害者福祉に関する改善勧告には、「職場での個人的支援の利用制限を撤廃すること」との趣旨の文章が盛り込まれた。
事実上、厚労省告示を批判する内容だ。それでも厚労省側は、「真摯に受け止めているが、個別の対応はとくに考えていない」と意に介さない。
代わりに厚労省が進めるのは、2020年に始めた「就労支援特別事業」だ。職場での介助に補助金を出す制度だが、取り組むかは自治体の任意。準備中を含めても導入するのは全国で約80市区町村、全体の4%程度にとどまる(2024年3月末時点)。
この制度で重訪を用いて仕事に就くのは計114人。重訪の利用者は全国で約1万2000人いることを考えると、その全員が働けるわけではないとはいえ、あまりにも少なく感じる。
導入していない自治体に住む重度障害者は、就職を実質的に封じられている。一方、厚労省は「そもそも働きたい人がどれだけいるのか不明。必要であれば取り入れるよう、各自治体には呼びかけている」と説明する。
煩雑な制度で使いにくい
問題は普及率の低さだけではない。この事業では「重訪を経済活動に支給しない」という大枠が維持されたのだ。自身も四肢マヒなどを抱え、介助付きで公務をこなす、れいわ新選組の天畠大輔参議院議員がこう指摘する。
「特別就労支援事業は『業務上の介助』と『生活上の介助』を線引きしている。企業への補助金支給である『雇用施策』と、生活介助のための『福祉施策』を組み合わせた制度設計なので、利用者とヘルパー派遣事業所、雇用主の事務作業が非常に煩雑だ。結果として、どのような介助なら申請してよいのかもわかりにくい」
つまり、厚労省告示第523号に拘泥するあまり、補助制度の利便性が損なわれるという事態に陥っているのだ。
実際の利用者はどう考えているのか。福岡県北九州市の岩岡美咲さんは、高校2年生のときに体操競技で頸椎を骨折し、首から下が不自由になった。北九州市立大の大学院に通う傍ら、地元の不動産会社でアルバイトに励む。
週3回、各3~4時間ほどの業務はすべてテレワークだ。口元の動きを機械で読み取ってパソコンを操作し、物件資料や社内報の作成を担当する。こうした就業中の介助を就労支援特別事業で賄う。
「新しく仕事を任せられたり、『ありがとう』と言ってもらえたりすると励みになる」とうれしそうに語る岩岡さん。充実した日々を過ごす一方で、複雑な手続きをヘルパー派遣事業所に強いており、負い目も感じている。
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