「就労での重訪が認められない」重度障害者の嘆き 厚労省が「個人の経済活動を利する」と拒む現状

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介助の対象が「就労」と「日常生活」のどちらなのかを細かく分けて記録し、月末に関係機関へ提出する必要があるからだ。「ヘルパー側の理解がなければ続けられない。余計な手間を掛けさせて申し訳ない」(岩岡さん)。

岩岡さんのアルバイト先である「株式会社DL」の大城幸治社長は、「一生懸命で周囲にも好影響を与えている。大学院の卒業後はぜひ正社員になってほしい」と評価。ただ、「採用前の手続きを自分でやってくれたから雇えた。障害者の制度に明るくない会社には難しい」と明かす。

岩岡美咲さん
「介助付き就労」の学習会で発表する岩岡さん(記者撮影)

役所との折衝や、必要な書類の準備などを岩岡さんは自ら率先して行った。本人は「行政側の担当者が熱心で恵まれていた」と振り返るが、大城社長は「きっと大変な負担だったと思う」と慮る。

就労支援特別事業に申し込む際、事前に雇用契約書を求められたのにも、面食らったという。「企業側は制度の活用を前提に重度障害者を雇う。先に契約を結べと言われれば、ハードルを感じる会社も多いだろう。せっかくの事業なのにもったいない」(大城社長)。

ヘルパー事業所の反応が気になる

記事の冒頭に登場した小暮さんは、一般企業への就職を諦めた後、手作りアクセサリーの個人販売で生計を立てようと考えた。住んでいる大阪府吹田市が今年4月、就労支援特別事業を導入。この一報を聞いた際は「ようやく職業を持てる」と喜んだ。

ところが、いまだに利用の申請すらできていない。実家を出て一人暮らしを始めたことで、新たに関わるヘルパー事業所が増えた。まだ知り合ったばかりの状態で、さらなる事務的な負担を強いるのに心理的な抵抗があるという。

「この制度を利用したいとヘルパー事業所に言ったら、向こうがどのような反応をするかわからない。国の制度として、就労中の重訪利用を認めてくれればいいのに……」(小暮さん)

障害者の法定雇用率は2026年度に2.7%へさらに引き上げられる方針だ。「誰もが活躍できる社会」の実現をうたう政府は、法制度の網から漏れてしまっている当事者たちの声を、どう受け止めるのだろうか。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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