一般企業に入るハードルの高さは理解していた。それでも「自分でお金を稼ぎ、好きなものに囲まれて暮らす」という夢を諦めることなく、周囲の友人たちと同じように就活に励んだ。神奈川の大手IT企業で2週間のインターンをやり遂げるなど、手応えもあった。
だが、障害者雇用枠を中心に応募した約10社は全滅。介助の必要性を告げると、まともに選考してくれない会社が多かった。障害を抱える学生向けの合同説明会では、「自力でトイレに行けるようになってから応募してください」と門前払いされた経験もある。
小暮さんは「重度障害者の中には、体の状態的にどうしても働けない人もいる。ただ、意欲がある人の道まで閉ざさないでほしい」と訴える。
普通に考えれば、就労できる人には働いてもらい、税金を納めてもらうほうが国や自治体にとっても合理的だろう。なぜ、厚労省は労働での重訪支給を認めないのか。
就労における公的な支援は不公平?
国側の主張の主旨は、①公的な支援で個人の経済活動を利するのは不公平、②合理的配慮を提供するのは事業者側の義務――というものだ。障害者福祉に詳しい藤岡毅弁護士は、こう反論する。
「車いすや補聴器などの器具にも公的な支給制度がある。これらを仕事中に使う人は大勢いるが、誰も『国が経済活動を利してずるい』などとは思わない。就労への物的支援は認めるのに、ヘルパーによる人的な補助はダメというのは、論理的に破綻している」
「食事やトイレの介助などは、企業側が提供するべき合理的配慮の範疇を明らかに超えている。国は自らの責任を放棄し、事業者側へ押しつけているだけに見える」
国側が根拠としているのは、「経済活動に係る外出には重訪を支給しない」と定めた厚労省告示第523号だ。しかし日本国憲法は個人に労働の権利と義務を保障し、障害者基本法は障害者に経済活動への参加機会の確保を認める。
「役所が勝手に決めた告示なのに、上位概念の法より優先され、国民の権利を縛っている現状はおかしい」(藤岡弁護士)
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