カリスマが「命懸けで採集する」"幻の虫"の正体 尾根から尾根へと移動、スズメバチに襲われても追う

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冬季の材採集に比べて、オオクワガタの夏場の樹液採集は、難易度が数段高くなる。樹液木を1日に何カ所も見て回るのは、山梨のような多産地でなければ難しい。

キクリンが車のトランクを開けると、伸縮タイプのはしごと木登り用のステップを取り出した。これまでも道具を使わず10メートルくらいの高さに、軽々と登っていくのを見てきたが、今度はいったいどんな場所だというのか!?

警戒したスズメバチが近づいてくる

はしごをかけたのは、崖の上にあるコナラの木だった。根元付近の直径は70センチくらいあり、まっすぐに伸びた幹にはかなりの高さまで枝がない。筆者もその木まで行こうとしたが、斜面がキツく滑り落ちそうになった。

崖はほぼ垂直に40メートルほどの高さに切り立っており、コナラが生えているのはそのふちだ。キクリンははしごをかけると3メートルの高さまで登った。そこからさらに5メートル上に、直径4センチほどの穴が空いている。

おそらくカミキリムシが羽脱した痕だろう。樹液が幹を伝って出ており、カナブンやスズメバチの姿が確認された。

どうするのかと見ていると、木登りステップを幹に巻き付けた。そこに足をかけて、両手で木に抱きついて垂直に登っていく。これは腕力だけでなく、腹筋、背筋、足腰の強さ、全てを要する。1メートル間隔で次のステップをかけ、ウロが覗ける高さにたどり着いた。

オオクワガタ採集
幹にステップをかけて、樹上10メートル付近まで登った。下には崖底が広がる(筆者撮影)

警戒したスズメバチがキクリンの顔に近づくが、体を支えているため、手で振り払うことができない。体を反らしたり、首をすくめたりして離れるのを待つ。その様子を見守りながら、冷や汗が流れた。彼の位置から50メートル下には、崖底が広がっている。

「入口を掃除した痕があるので、中にオオクワがいるんだと思います」

自分の棲家を清潔に保つために、中の木屑を外にかき出すらしい。わずかな痕跡なので、経験を積んだ採集人でなければ気づけないだろう。しかし穴は深く、角度を変えながら覗き込むも潜んでいる主の姿は捉えられない。

「樹液が出ているのに、コクワガタや他の虫もついていない。中にそれらよりも強い虫がいるのは間違いないと思いますが、今は無理ですね」

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