カリスマが「命懸けで採集する」"幻の虫"の正体 尾根から尾根へと移動、スズメバチに襲われても追う
「え? それってホームセンターに2000円で売っている虫でしょ?」と言うのはやめてくれ。確かに今では飼育で増えて、“王様”も安価になってしまった。
だがここで取り上げるのは、真の天然オオクワガタのことである。昭和の時代、それは“黒いダイヤモンド”と呼ばれ、庶民には手の届かない存在だった。都会では虫好きな少年たちが、高級デパートの伊勢丹に置かれたケースを張り付くように見つめていたという。
当時の値段でも、小さなものが数万円、大きなものは10万円を超えるのが相場だった。筆者のような地方住まいの者には、王様の顔を拝むことさえできなかったのである。
オオクワガタは「一等地」を目指す
なぜオオクワガタは採るのがとんでもなく難しいのか?
その理由は、単に数が少ないからだと思ってきた。確かに希少種であることは間違いないのだが、インフィニティーのメンバーに同行して、それだけではないことがわかった。
メンバーのキクリンこと菊池愛騎は言う。
「オオクワガタはエサを食べるよりも、身を隠すことを優先する虫です。体がすっぽりと潜れるウロや大きな樹皮のめくれがあり、そこから樹液が出ていることが絶対条件になります」
見かけることが多い普通種のクワガタやカブトムシは、樹液が出ていればそこに集まってくる。根元付近から人の目が届く範囲で、樹皮の上にとまっているため簡単に見つかる。
だがオオクワガタは身を隠せる場所がない限り、樹液が出ていてもそこに来ることはない。
台場クヌギのウロやカミキリムシが羽脱した穴、樹皮の大きなめくれがあり、そこから樹液が出ていることが絶対条件になる。そしてもう一つ、フジの木がクヌギやコナラに巻き付くと、締め付けにより樹液が滲むことがある。そこにオオクワガタが潜める隙間があれば、絶好の棲家になるのだ。
しかし自然界において、こうした“好物件”は少ない。山梨県など台場クヌギが多数残された地域を除けば、一つの山にオオクワガタが入れる条件の揃った木は、数えるほどしかないという。
では入居にあぶれた個体はどうなるのか? 妥協して他のクワガタたちと同じように樹液を舐めて、土に潜って寝ればいいと思うのだが、それができないらしい。
キクリンに言わせると、こういうことになる。
「オオクワガタは常に一等地を目指すんです」
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