変質した「3中全会」にみる変わりゆく中国政治 中央委員会の地位低下や対台湾立法措置に注目

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しかし、李克強はもうこの世にいない(2023年10月死去)。この結果、習近平氏の個人支配が強まり、政治的過渡期の性質がなくなった20・3決定では、①の李克強的要素が減少し、②の習近平的要素が強調されることになった。

中央委員会の政治的地位の低下

今回の3中全会から得られる政治的示唆としては、次の2点が挙げられる。

1つめは、党中央委員会の政治的地位の低下である。開催日程の大幅な遅れや、決議文書における経済・社会改革の意義の相対的縮小など、改革開放期以来の慣例化されたパターンからの逸脱や実質的変更は、政策過程全般に対する習近平氏個人の影響力の増大とその裏返しとしての中央委員会軽視にほかならない。

習近平氏の考えはおそらく、自身がトップを務める党中央全面深化改革委員会や党中央財経委員会が、「改革」や「経済」の立案・執行・指導監督などの司令塔的役割を十全に担い、個々の党組織や政府機関がそれぞれの組織系統に基づき、上級からの指示命令を着実に履行しさえすればそれで事足りるというものだ。政策形成と政治的コミュニケーションにおける中央委員会の役割は、今後ますます小さくなっていくだろう。

2つめは、中台関係を規律する新たな法制化や関連法制の見直しが図られる可能性である。「20・3決定」では、台湾政策に関する直接的記述は少なく、「両岸の経済文化交流協力を促進するための制度と政策を改善し、両岸の融合発展を深化させる」などと述べる程度にとどまった。

一方で、同決定では、指導部が管理監督の強化が必要と認識する重要政策の立法化に複数回言及している。具体的には「民営経済促進法」、「金融法」、「民族団結進歩促進法」などであり、ほかにも「環境法典」や「国境をまたぐ反腐敗法」などの法整備も指摘されている。このうち「民族団結推進法」の制定は、「中華民族の共同体意識」の涵養を目的とした制度基盤の整備とされるが、実態的には、チベットや新疆ウイグルなどの少数民族、香港住民など各種マイノリティへの抑圧的統治の強化とみられる。

こうした動きから推察するに、内政では「中国的法治」の徹底を掲げつつ、台湾問題の「解決」をライフワークとする習近平氏が、中台関係についても、今後なんらかの立法措置を試みるかもしれない。例えば、2005年制定の反国家分裂法の条文修正や解釈変更、新法の制定などである。

本年(2024年)6月末、中国最高人民法院、最高人民検察院、公安部、国家安全部、司法部が連名で作成した「台湾独立分子」への死刑適用を定めた処罰規定の発表は、「法」と「台湾」をめぐる習近平のそうした政治的意向の反映であり、官僚たちの忖度の表れとみられる(これに関する詳しい分析は、福田円「『台湾独立派』に死刑適用も中国の狙い外れる背景」)。今後こうした動きにも注視する必要があろう。

鈴木 隆 大東文化大学教授

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すずき たかし / Takashi Suzuki

慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程退学、博士(法学)。財団法人日本国際問題研究所研究員、愛知県立大学講師・准教授などを経て、2023年4月より現職。主著に『中国共産党の支配と権力:党と新興の社会経済エリート』(慶應義塾大学出版会、2012年)。『最高実力者 習近平:支配体制と指導者の実像』(東京大学出版会、2024年近刊)。

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