台湾包囲の軍事演習で中国が抱えた「ジレンマ」 中台関係に詳しい東京大学・松田康博教授に聞く

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訪台したペロシ下院議長
台湾を訪問したアメリカのペロシ下院議長(写真:2022 Bloomberg Finance LP)

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アメリカのペロシ下院議長の訪台に激しく反発した中国は、8月4日から7日にかけて台湾を取り囲むように大規模な軍事演習を実施。その後も軍事演習を継続したほか、航空機や艦船を台湾周辺に送り揺さぶりをかけ続けている。
中国の強圧的な姿勢は今後どうなるのか。台湾や日米などはそれにどう対応していくべきなのか。台湾政治や中台関係に詳しい東京大学の松田康博教授に聞いた。

――中国は台湾を取り囲む大規模な軍事演習を行い、1995~1996年以来の危機として「第4次台湾海峡危機」と呼ばれ始めています。

中国がこれだけ大がかりに反応したのには、主に3つの目的がある。

1つは、先進国の高官が台湾を訪問する流れを止めたい。これは1995年の状況と似ている。当時、台湾の李登輝総統が訪米し、アメリカが関与して孤立していた台湾が国際社会で活動空間を広げようとした。ただし、中国が軍事挑発をすれば、次が続かなくなる。

2つ目は、中国が演習の目的を「台湾独立派を震え上がらせるため」と明言にしているように、台湾の人心を変えるという台湾向けの目的。

そして3つ目は、中国国内向けの政治的必要性からくる目的だ。習近平国家主席は今年の秋に予定されている党大会で党トップの3選を狙っている。指導部人事など、これから詰めに入る段階だが、ゼロコロナ政策や米中関係の悪化など批判されうる材料が多い中で、ペロシ議長に訪台され、メンツを潰された。

ここで、「アメリカに対して弱腰ではない」と国民も煽り、反米や台湾独立を叩く姿勢により軍を使って国内を盛り上げて自らへの反対を抑えようとした。これは2012年に日本政府が尖閣諸島を購入した際と似ている。当時は習氏が総書記に選出される党大会を控えていた時期であり、尖閣諸島での領海侵入や反日暴動を許した。

中国による台湾への接近行動が増える可能性

最大の目的は、3つ目の国内向けだろう。ウクライナ戦争で世界が中国も台湾を攻撃するか懸念している中、今回の演習で中国は怖い国であると世界に見せつけてしまった。

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