ペロシ議長を歓迎した台湾に残された爪痕と自信 いたずらに緊張高めたが抑止強化は続けるべき

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アメリカのペロシ下院議長が台湾を電撃訪問した。早くも対抗措置に出た中国に対し、台湾はどのように対応していくのか。

台湾を電撃訪問したアメリカのペロシ下院議長(左)は、蔡英文総統との会談に臨んだ(写真:AFP=時事)

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現職のアメリカ下院議長としては25年ぶりの訪問となったペロシ氏の台湾滞在は、数時間に終わるという当初の大方の観測を裏切り、1泊したうえで約19時間に及んだ。その間、ペロシ氏は蔡英文総統との会談や立法院(国会)訪問、台湾積体電路製造(TSMC)の創業者や現役トップとの面談など過密なスケジュールをこなした。

親中派団体など一部で抗議活動が展開されたが、ペロシ氏訪問に台湾社会は歓迎ムードが漂い、お祭り騒ぎ状態だった。国際的な孤立を経験してきた台湾の人々には世界的な注目を浴びるイベントともなった。一方、台湾政府や与党・民主進歩党(民進党)からは「試練が残された」と、今後への懸念も聞かれる。

台湾社会は自信を深めた?

「台湾の物語は自由と民主主義を愛する人々の物語」「台湾はたくましい島で、希望と勇気と決意があれば平和で豊かな未来を築けると証明してきた」

ペロシ下院議長は3日午前に蔡英文総統を訪問した際、台湾をそうたたえた。また「アメリカは揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語った。

今回、ペロシ氏は、台湾が独裁政権時に反体制派とみなした政治犯らを収容した施設を利用して作られた景美人権博物館も訪問。台湾滞在中に相次いで台湾の民主主義や自由を評価し、台湾に関与する姿勢を見せ続けた。

また、ペロシ氏は半導体受託世界最大手のTSMC創業者の張忠謀氏や現役トップの劉徳音董事長とも会談したとも伝えられた。アメリカ下院では7月28日に半導体の生産や研究開発に527億ドルの補助金を投じる半導体法案が可決されたばかりだ。

世界で最も技術力がある企業の1つであるTSMCもアメリカでの新工場建設を表明しており、会談相手として名前が出るのは自然な流れといえる。だが、台湾市民には世界的に認められた企業があることを改めて認識できる瞬間だった。

日本植民統治や約40年以上におよぶ独裁政権時代を経て、ようやく勝ち取り発展させ続けた自分たちの民主主義と自由を認められ、国際的孤立や中国大陸からの圧力に耐え現状を維持し続けてきた奮闘が肯定的に注目された。

かつ台湾は必要とされているという実感である。訪台そのものに加え、彼女の滞在中の振る舞いは意識せずとも多くの台湾の人々の琴線にふれるもので、台湾社会の盛り上がりはそれを表していた。

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