創業15年、「アイティメディア」が進む道

老舗ネット企業が利益を出し続ける理由

ねとらぼは同社最大のサイトにもかかわらず、広告の営業スタッフは置かず、基本的にはアドネットワーク(複数サイトの広告枠を集めて商品化したもの)による収入で運営する方針だ。現在は赤字だが、2016年度には黒字達成を目指す。当面の目標は1億PV。この水準を超えて、人員も増強したタイミングでタイアップ広告を本格化し、一気に収益化を図る算段だ。「地味かもしれないが、その日に起きたネットの話題を網羅していけば、おのずとユーザーやPVは増えていくと思っている。PVは大事だが、品質も大事にしていきたい」(加藤編集長)。

また、将来的には各国の現地スタッフが同ブランドで運営する世界展開も視野に入れる。米国ではカリフォルニア州のアメリカ人ゲーマーを特派員として契約するなど、準備は着々と進行中だ。

ただ、PVを追求するモデルだけに、課題も浮上している。ネコの動画やアダルトネタも扱うなど、同社のサイトの中でもねとらぼは異色の媒体だ。ブランドや広告に与える影響はないのだろうか。これに対し、大槻社長は「やわらかいネタもあるが、ねとらぼ憲章というガイドラインを作り、細かく守るべき項目を決めている。従来の考え方ではスマホ時代にはついていけない。異質なものが生まれる土壌は必要だ」と説明する。モバイル広告を強化する中で、全社的なバランスを保つことは経営の課題になるだろう。

大槻社長は1984年に日本ソフトバンク(現・ソフトバンク)入社。1989~1994年の5年半、孫正義社長の秘書を務め、ヤフージャパン設立時には広告の担当者としてかかわった(撮影:吉野純治)

広告主のニーズに合わせ、メディアの形を変化させてきたアイティメディア。それゆえに、編集部門のマネタイズ(収益化)に関する意識は非常に高い。各サイトの収支状況は週ごとに把握し、編集長や事業部長はつねに進捗をチェック。編集記者が広告を執筆するケースもあるため、広告の営業についても担当者と連携する。背景には「儲からなければ、メディアを続けられない」という強烈な危機感がある。「収益を意識しない社員が一人もいない」ことは、大槻社長の自慢だ。

テクノロジーを中心に、30の専門メディアで多様な産業の動向を伝える。同時に、広告主のニーズに合った商品を作り、マネタイズするためにはメディアの買収や再編も厭わない。新聞社のようなジャーナリズム、報道ではなく、「IT分野に的を絞った広告モデル」を確立。他にはマネできない独自の事業モデルを構築している。

他のネットメディアは低収益、赤字に苦しむ

 実際、多数の新興ウェブメディアが生まれているが、安定的に黒字を出す事業モデルを構築できた例は少ない。まず、大手新聞や出版のメディアの多くは利益を出せていない。ニュースアプリ「グノシー」の15年5月期の純利益は1.3億円と黒字決算だったが、1000万ダウンロードを誇るメガサービスにしては寂しい数字だ。エンタメニュース「ナタリー」の運営会社で、昨年KDDIが買収した「ナターシャ」も15年3月期は約1200万円の最終赤字。有料課金中心で、広告収益に頼らない方針を標榜するニュースアプリ「NewsPicks」を展開するユーザベース(3月に事業を分割)も14年12月期決算は3.4億円の最終赤字だ。

 最近はメディア関連のイベントが数多く開催され、新興メディアの編集者がアピールを重ねているが、アイティメディアはこうした場にはほとんど出ていない。ある幹部は語る。「われわれは忙しいので。社内でも議論はあったが、出てもPVや読者が増えるわけではない」。儲からなければメディアは続けられない。創業 15年の老舗ネットメディアは、今後も独自のモデルを模索し続ける。

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