「現金で変わった」パプアニューギニアの食風景 「イモより米が食べたい」と人々が語る背景

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ある日、近所の家でヤムイモの植え付けがあるというので、呼びかけに応じて村の男たちが集った。植え付けと収穫は人手がいる作業なので、互いにヘルプに行くのだ。男たちが畑で働く裏側で、炊事場では女たちが大鍋で煮炊き。サゴヤシ団子を作っている。男たちの昼食だ。

ふと炊事場の隅を見ると山積みのヤムイモとタロイモ。「あれは植えるの?」と聞いたら「食べるんだよ」と言う。昼食だけじゃなく夕飯も作るのかと思いながら、皮むきの手伝いをする。

ナイフを手前から奥に向かって動かして皮をむく。彼女たちがむいた後のイモには全く土が付いていないが、私がやると土だらけ(筆者撮影)

むいたイモの一部は細かく切って煮てとろとろのスープにし、残りは大ぶりのままゆでて、いつものやつに。表に出ると、サゴヤシ団子を食べ終えた男たちがおしゃべりしながら一息ついている。

と思ったら、先ほどのゆでイモとヤムイモスープがたらいで運ばれてきて、それらも次々平らげていく!あれは夕飯ではなく全部昼食だったのか。その食欲に驚いている私に、「お金があればご飯(米)も振る舞うんだけどね」と耳打ちしてくれたのは、台所を取り仕切っていた女性。働くからそれだけ食べるのだそうだ。

お皿がわりにたらいに入れたイモは、これで2〜3人分(筆者撮影)

この日は植え付けが早く終わったので、食べたら解散。労賃を現金で渡したのは見ていない。「手を必要としている人がいたら助ける、互いに力を貸し合うのが当たり前だ」と言うけれど、労働が互いに交換され、満腹の食べ物という対価が支払われていたように私には見えた。ちなみに、収穫の時には食べ物に加えて生のイモもお礼に渡されるらしい。

どの家にも必ずあるイモの貯蔵小屋(カンディンガと呼ぶ)を見せてもらったら、「手前はうちで食べる用、あれは植え付けの時に振る舞う用、一番奥は結婚式や葬式があった時に持っていく用」とイモがきれいに仕分けて蓄えられていた。まるでイモがお金みたいだ。

イモの貯蔵庫「カンディンガ」。一番奥に並ぶ冠婚葬祭用のイモが、一番立派で形もよい(筆者撮影)

だが、最近の世代は急速に米を好むようになっている。子どもだけでなく、50〜60代の人まで「イモは……」なんて言う。彼らが子どもの頃は、イモづくしだっただろうに。「ガーデンカイカイは基本だけど、連日だと飽き飽き。米やサゴヤシが食べたい」なんていう。しかし、サゴヤシは森で木を倒してでんぷん採集すれば食べられるからいいとして、米は買わないと手に入らない。しかも高い。どうするか。

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