「現金で変わった」パプアニューギニアの食風景 「イモより米が食べたい」と人々が語る背景

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私は素朴なガーデンカイカイのほう方が好きだと思っていたが、米はイモより素早く甘くて、軽くてさらさら食べられるし、その上にのせたやつなんて無上にうまい。子どもも大人も今日は食べっぷりがいい。

米、インスタント麺、サバ缶。台所できらきらしているのは現金の食だ。さらには、ジュースも電話代も学校教育も現金じゃないと手に入らないし、現金需要が高まっていると言えるだろう。

(筆者撮影)

 現金がほしい

ところで、近年パプアニューギニアは治安がさらに悪化していると言われる。金品強奪を目的とした犯罪が頻発していて、現金が保管されている銀行やレストランを給料日前に襲撃する例などがあるそうだ。背景には物価高騰と生活困窮者の多さがあるとされるが、確かに市場で売っている食料以外は日本並みかそれ以上の高さで、どうやって生活できるのかわからなかった。

信仰も変化している。この村ではここ数年でヤムイモの神様を祀る伝統信仰からキリスト教への移行が進んでおり、村の男性曰く「昔はヤムイモの神様に収穫を祈ってさえいればよかったけれど、今は現金の時代だからね。イエスキリストは食べ物だけでなく現金も与えてくれる」と。言葉が出なかった。

現金が社会を変え、食を変えている。これが遠い南太平洋の国の話で済んだら「大変だねえ」で済むのだが、私たちが生きる現金社会もきっとこういう変化を経て出来上がったものなのだ。現金は社会の発展に大きく役に立ったが、社会を揺るがしもする諸刃の剣であることを、やわやわのインスタント麺を思いながら噛み締めた。

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岡根谷 実里 世界の台所探検家

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おかねや・みさと / Misato Okaneya

東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務し、独立。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。講演・執筆・研究のほか、全国の小中高校への出張授業も実施。立命館大学BKC社系研究機構客員協力研究員、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)連携研究員、京都芸術大学非常勤講師。近著に「世界の食卓から社会が見える(大和書房)」。

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