"勝つアスリート"の卓越した「思考の整理」 日本選手権で活躍した選手たちの「頭の中」

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勝者の影には必ず敗者がいる。多くの敗れ去った者たちのなかで、最も印象的なコメントを残したのが男子5000mに出場した大迫傑(NikeORPJT)だ。

敗れても大迫の表情がスッキリしていたワケ

大迫と村山紘太(旭化成)の対決は見応え十分で、勝負は最後の直線までもつれこんだ。ラスト1周で大迫が先に仕掛けたものの、残り50mで今季イケイケの村山に逆転されて、0.50秒差の2位(13分37秒72)に終わった。

大迫は昨年まで日本選手権10000mで3年連続の2位。いずれもラスト勝負で佐藤悠基(日清食品グループ)に僅差で敗れている。4年前は、負けて悔しさをあらわにしたが、今回は冷静だった。調子を崩していたこともあり、いまの自分が目指すべき“結果”をしっかりと確保したからだ。

「3位以内という最低目標は達成できましたし、狙うレースはできたので、そこは良かった。まだ世界陸上の標準記録を切っていないので、期限までに突破したいと思います」

優勝した村山紘太はすでに標準記録を突破しているため、世界陸上の代表が内定した。2位に入った大迫も、期限である8月2日までに標準記録(13分23秒00)をクリアすれば、日本代表に選ばれる可能性は十分にある。

大迫は昨年から米国に拠点を移して、世界トップのクラブチームである『ナイキ・オレゴン・プロジェクト』でトレーニングを開始した。1年間在籍した日清食品グループを退社して、春からはプロランナーとして勝負している。米国の武者修行でスピードを磨いてきたが、現時点では明確な成果が出ているとはいえない状況だ。それでも本人はポジティブにとらえている。

「1年前と比べて、違う力を発揮できたかどうかは分かりません。自分がどうすれば勝てるかは模索中で、周囲からいろいろ言われますけど、決めるのは僕自身。変化していくのも僕自身。米国で練習をするようになって、まだ大きな変化はないかもしれませんが、2~3年後には自分が先に行っているという気持ちで練習しています」

目先の結果か、それとも数年後の大きな結果か。大迫のチャレンジを評価するのはもう少し後にすべきだろう。 

スポーツの世界ではライバルとの名勝負がクローズアップされる。しかし、アスリートにとって、“本当のライバル”は、どんなときでも自分自身だ。ビジネスの世界でも、それは変わらない。まずは頭のなかを整理して、自分が何をするべきなのか。クリアにしたうえで戦うことが、「結果」につながるはずだ。
 

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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