2匹のロバと農業用トラック
バスの停留所は広い敷地にぽつんと存在していた。バス停の看板すらない。
オフラインマップで確認すると、そこには「ヘリポート」と表記されていた。有事の際に車での移動は遅すぎるため、軍隊や政府の重要人物がこの奥地までヘリで飛んでくるための場所なのだろう。
だが、その広々とした敷地に停まっているのは、ヘリではなく、水色とオレンジに塗装された大型の農業用トラック1台だけだった。
その前には、2匹のロバがのんびりと寝そべっていて、人間の存在などまるで気にしていない様子だ。
トラックの後ろには「BLOW HORN」という文字が書かれていた。その言葉は直訳すると「角笛を鳴らせ」となるが、スラングとしては「自画自賛」のような意味合いも持っている。
トラック運転手らしいセンスのいい言葉選びだ。BLOWとHORNの間には孔雀の絵が描かれており、この辺りに住む人々と野生動物との距離の近さを象徴しているように思えた。
ナコのバス停に降り立ったのは、俺とカナさんだけだった。若いイスラエル人の姿はどこにも見当たらない。


















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