発達障害者も「スーパー総務」と重用する零細企業 「新・ダイバーシティ経営」選出社長の採用方針

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同制度は厚生労働省が管轄する事業で、障害者を原則3カ月(テレワークは最大6カ月、精神障害者は同12カ月)、実際に雇ってみて適性を見極められる。期間中は月額最大4万円(精神障害者の場合は同8万円)の助成金も事業者側に支給される。

「お試し期間で一区切り、その先は結果次第、という認識を事業者と労働者側の双方で共有できるのは大きい」と川田社長は指摘する。当然、中長期的な雇用を見据えた制度ではあるが、自社にこの人は合わないと判断した際でも断りやすいからだ。

本当にその人材が必要なのか、現場で数カ月かけて見極めるのは、通常の採用活動では難しい。健常者でも入社後に数カ月の試用期間を設けるのは一般的だが、解雇するとなれば相応の理由を求められる。実質的には、やる気や適性を見抜くのは面接での限られた会話に頼らざるを得ない。

ところが障害者であれば、制度の利用によって自社との的確なマッチングを果たせるのだ。しかも助成金までもらえる。川田製作所では、トライアル期間中に個人の生産目標を設定。クリアすれば継続雇用するという形を取っている。これまでに3人の実習を受け入れ、うち1人を採用した。

川田製作所
知的障害の男性社員は長期の実習を経て採用された(記者撮影)

働く障害者側にとっても、職場の雰囲気や業務の中身を事前に知れる利点がある。ミスマッチを防げるため定着もしやすい。

「たとえ健常者を雇っても、すぐに辞められたら採用や教育にかけたコストが無駄になる。トライアルを経た障害者のほうが、そうした人的投資を回収しやすいと思う」(川田社長)

負担だけでなくトータルで考える

さらにハローワークなどを経由して障害者を雇うと、「特定求職者雇用開発助成金」という補助を得られる。中小企業の場合、重度の身体・知的障害者や精神障害者などを継続雇用すれば、3年で計240万円が支給される。初期の人件費を抑えながら、障害者を戦力化する道筋を立てられる、というわけだ。

障害者雇用の取り組みなどが評価され、川田製作所は2018年に経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2022年には厚生労働省による「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」にも選ばれた。

地元でも、2012年に神奈川県から「かながわ障害者雇用優良企業」と認定された。こうした評判から近年、川田社長の元には講演会などの依頼も相次いでいる。佐々木さんは「障害者雇用に熱心と知ったから」と応募の動機を語り、採用面でも有利に働いている。

人手不足にあえぐ企業は多い。とくに小規模な事業者の中には、後継者不在で廃業を迫られるケースも増えている。そんな状況を踏まえたうえで、川田社長はこう力を込める。

「障害者を受け入れると、最初は現場に負担感も生じると思う。ただ、トータルで考えればメリットのほうが大きく、法的な義務がない小さな会社でも、選択肢から外すのはもったいない。人手が欲しいのであれば、まずはトライアルを受け入れてみるのはいかがでしょうか」

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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