放射能と理性 ウェード・アリソン著/峯村利哉訳
原子力発電所事故にかかわる放射線量の安全な上限値をめぐって論議が盛んだ。だが「年20ミリシーベルト」という政府の数値の科学的根拠は何なのだろうか。オックスフォード大学で素粒子論を専攻し放射線医学に取り組んできた著者は、放射線の害を物理学・生医学・統計学によって解明し、不安と風評に揺れる常識とは異なる結論を導き出している。
最大の焦点は放射線量と人体損傷の関係が、ゼロから始まる直線(LNT)か、閾値(いきち)を伴う2次曲線か、にある。前者は圧倒的多数意見で「ごく微量でも体に悪い」派だが、本書は後者の立場に立ち一定量まではまったく心配ないとする。特に細胞には時間とともに被曝から修復する力があるとする分析は、等閑視されがちな生物学的視点で鋭い。上限値は月100ミリシーベルトで何ら問題ないとする主張が衝撃的だ。論争的でありながら放射線物理の多彩な知識が豊富に得られ、結びの「福島」論でも論旨は一貫、揺らぐことはない。(純)
徳間書店 1575円
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