業界騒然「豆腐バー」異例のヒットになった道筋 創業52年のメーカーが新基軸を開発できた理由

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2つ目の理由は、海外で得た知見である。2018年にマーケティング部長として入社した、池田未央現社長がアメリカに視察に訪れた際、店頭で見たのが肉の代用品としても食べられる硬い豆腐だった。

日本では、豆腐の購買中心層が中高年女性に高齢化している。しかし、肉のように食べられる硬い豆腐なら若い世代にもウケそう、と「帰国後に提案しましたが、職人さんたちに『水をたくさん含み、つるんと食べられるのが日本の豆腐だ』と受け入れてもらえませんでした」と池田社長は話す。

1人で試作を繰り返し、セブン₋イレブンに持ち込むと好感触を得た。報告を聞いた社員たちはやる気を発揮し、構想から約2年で豆腐バーの発売にこぎつける。豆乳とニガリの結合を企業秘密の製法で緩め、水分が9割を占める豆腐よりさらに水分量を1割絞った。

池田社長(撮影:今井 康一)

菓子業界から豆腐業界に転身

豆腐業界の常識を破る挑戦ができたのは、3つ目の要因による。池田社長は、門外漢だったのだ。長年菓子業界で企画に携わり、「お菓子は食べ尽くしたな、と思っていたら、豆腐メーカーが人を探している、と誘われたんです」と振り返る。

「私はいい意味で知識がなかった」という池田社長。豆腐に関する固定観念がなかったからこそ、豆腐バーという新たな領域へ踏み込むことができた。一般的な豆腐と違い、仕事の合間のおやつや、ダイエット、プロテイン補給などの目的で選ばれることが多く、購入層の中心は40~50代で、20~30代も多い。豆腐をあまり買わない男性も4割を占める。

4つ目の理由は池田社長の周囲を巻き込む力にある。前提として、アサヒコが長年のデフレにも苦しめられていた問題がある。

総務省の家計調査によると、豆腐1丁の単価は2004年に90.2円だったのが、2022年は30円近く下がった。業界大手は効率的に大量生産して単価を下げ、価格競争に巻き込まれた中小企業は耐えきれず廃業していく。セゾングループを離れたアサヒコも2014年、経営を立て直すため、韓国の健康食品メーカーで豆腐シェア世界一のプルムウォン傘下に入った。

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