土田さんはまず、担当になった顧客リスト260件の中から、車検対象になっている顧客へ順次電話をしました。しかし、車検の予約はなかなか入らず、対象の50%未満の獲得しか出来ません。これではらちが明かないと思った彼女は、会社の了承を取り付け、顧客を1件1件、地道に訪問することを始めたのです。
「とにかく外へ行ったら、元気に笑顔で挨拶する。そして、いきなり車検の売り込みをするのではなく、きれいなお庭が目についたら『これなんていうお花ですか?』とか、小さな自転車が停めてあったら『お子さんはおいくつですか?』とか、お客様に寄り添うように雑談をしていきました。
そうするうちに、不思議とお客様の方から『実はね、あなたのところのお店、遠いのよ』『ディーラーで車検なんて、敷居が高いと思っちゃうのよ』といった、ディーラーに関する不満や相談をしてくださるようになったんです」(土田さん)
獲得率は2カ月で13ポイント向上
電話ではけんもほろろだったお客様が、直接顔を合わせ、会話を繰り返すうち、本音をぽろぽろとこぼすようになりました。
さらに顧客接点を強化するため、土田さんは「石岡正上内店ワクワク新聞」という手書きの新聞を作成、顧客に配布しました。「車のことだけでなく、料理レシピとか生活の知恵的な、主婦目線で女性顧客に役立つ情報を心を込めて書くようにしました」(土田さん)
こうして当初は車とは関係ない信頼関係を一人、また一人と積み重ねることから始まった土田さんの車検獲得営業は、顧客の中に眠っていた潜在的ニーズを着実に掘り起こし、目に見える成果を会社にもたらします。
土田さんが顧客訪問を開始する前は、車検実績率49%だったものが、開始後2カ月間で62%に。わずか2カ月で、なんと13ポイントもアップさせるという快挙を達成したのです。
しかし、新車販売がメインの自動車ディーラー。「売らない営業」を、しかも営業としては素人の女性が取り組むことを、会社は不安に思わなかったのでしょうか? 福田さんによると、実は当時、女性が訪問で車検獲得活動をすることに対し、社内の反対の声は少なくなかったそうです。
「車離れが危惧される時代、既存顧客に働きかける中長期的な営業の必要性は会社側としても認めてはいましたが、目の前の来店客に頼って営業していた方が即効果が出て、楽。売り上げも上がっていただけに、あえて車検獲得を推進することに疑問を示す声もありました。「女性が車なんて」という業界の風習にとらわれた声も根強く残っていたのです。
しかし、土田さんは地道なコツコツ営業で、顧客の心をつかみ、結果的に成功事例をもたらしてくれました。もし男性が車検獲得を担当していたら、単刀直入に『車検の時期なんですけど……』と切り出していたでしょう」(福田さん)
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