幸せの国ブータンの食卓で見た「幸せの現実」 「毎日同じ夕食でも幸せ」と話す深い意味

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お世話になる夫婦は、棚田に入って草取りをしていた。2人は、他の多くの家と同様に農業で生計を立てている。棚田の草取りをし、牛の餌となる草を刈り、キノコを採りに行き、牛の乳を搾る。

畑の唐辛子は自家用兼収入源なので、収穫期には盗まれないよう畑の隅に建てたテントで夜の見張をする。牛の生乳がたまったらバターとチーズを作り、食事の後には庭で皿洗い。のどかな農村風景に見えて仕事は無限にあり、休む間はない。

この時は夏休みで大学生の子どもたちが手伝いに来ていたが、普段は2人だけですべての仕事をする。一緒に仕事をしながらいろんな話をして、その中で父さんに「幸せって何?」と聞いてみたが、あまりに浮いた質問で困った顔を返されるばかりだった。

棚田の草取りは重労働。急坂なので腰だけでなく脚も使う、しかも2500m超えの高地(筆者撮影)

「いつも同じ夕飯も幸せ」

さて、帰宅して食事だ。一家の台所で生まれる料理はきわめて簡素で、「青唐辛子と何かをチーズで煮て、それをおかずにご飯を山盛り食べる」が基本形。少量の辛いおかずで山盛りのご飯を食べる。みんなおかわりする。

1日の終わり、家族と床に丸く座り、青唐辛子チーズ煮(エマダツィ)をおかずに山盛りのご飯をかき込み終えると、なんだかもうそれだけで充足した気持ちだし、それ以上何かをする余力もない。スマホいじりをする気力も意欲もなく22時には寝落ちする。

ある日の夕飯を食べていた時。父さんが、思い出したように「これも幸せの1つだよ」とぽつり言った。「幸せも、不安も、妬みも、すべては自分の中にあるものだ」。

日を重ねる中で少しだけわかってきたのは、「幸せの国」と言えども人々は底抜けにハッピーで不安がないのではなく、足るを知るというか、あるものに満足し、幸せを感じるのが上手だということ。静かに満ち足りて幸せを感じる、このメンタリティはどこからくるのだろうか。

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