子どもたちも母のその願いを叶えてあげたかった。しかし、多忙なゆえに母と同居することは2人とも難しい。そのため、母が嫌がっていたデイサービスを受けるという条件で、また一人暮らしを始めてもらうことにした。病院から家に戻る母のために、もう一度部屋を綺麗にしてあげたかったのだ。
一人暮らしをする日本人の高齢者は年々増加している。厚生労働省が実施している国民生活基礎調査(2019年)によれば、1986年では65歳以上の者のいる世帯のうち単独世帯は13.1%だったが、2019年には28.8%となっている。
この家に暮らしていた90代の母親も、部屋が荒れてしまったのは一人暮らしが大きな要因だ。イーブイの二見文直社長が話す。
「ゴミ屋敷になってしまったのは身体の具合と年齢がかなり影響していたと思います。高齢者の部屋を片付けているときにいつも思うのは、年をとればとるほど家の中の動線が限られていくということです。一軒家の場合、大抵は1階だけが生活スペースとなり、2階や3階はまったく使われていないことがほとんどです」
ただ、この家は1階が店舗スペースとなっており、そこでは生活することができなかった。2階まで階段を使って上がるしかなく、90代の身体には相当な負担だったはずだ。2階で出たゴミや不用品がそのままになってしまうのも無理はない。
「動線以外の場所には自然とゴミやモノが溜まっていきます。でも、そこは動線ではないので生活に支障は出ないんですよ。ゴミやモノが生活スペースに浸食してくるまでは、本人も気にならないんです」(文直氏)
孤独がゴミ屋敷を生んでいる
「孤独がゴミ屋敷を生む」といっても、そこに至る経緯や背景は多岐にわたる。それは、これまで本連載で取り上げたケースからもわかることである。そのうえで、ゴミ屋敷になってしまう人はいくつかのタイプに分けられるという。
「まずひとつは家からまったく出られなくなってしまった人。職場の悩み、人間関係の悩み、うつ、などその原因は様々ですが、そういった精神状態が部屋に現れてしまうパターンです。ゴミを外に出すこともできない“セルフネグレクト”に陥ってしまう」(文直氏、以下同)
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