「働き口がない」早稲田院卒55歳男性のジレンマ 美しい文章を操る能力と「振る舞い」のギャップ

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ケイスケさんによると、翻訳作業は「生きがい」といえるほど楽しく、いつも1年分の仕事を半年余りで完成させてしまうという。「ほかの言語の翻訳も委託しているようですが、(宗教法人からは)私の仕事が一番早いという言葉をいただいています」。

しかし、問題は残りの半年だという。少しでも収入を増やそうとアルバイトをしてみても、数カ月と続かない。郵便局の集配の仕事では作業スピードについていくことができず、パソコン入力の仕事ではエクセルの使い方を習得することができず、いずれも自ら辞めた。

高学歴ゆえのプライド

ハローワークを通し、障害のある人などがサポートを受けながら働くことができる就労継続支援B型事業所や同A型事業所を見学したこともある。そのときの感想を、ケイスケさんは「差別的なことを申し上げてすみません」と謝りつつ、次のように語った。

「B型では農作業をしていましたが、(利用者の)多くはお顔立ちなどから知的障害のある人だとわかりました。A型では(菓子箱などの)箱折り作業を体験したのですが、いわゆる単純作業です。大学院で博士号まで取り、大学でも教えていた人間がどうしてこんなところでと思うと悲しくなってしまいました」

高学歴ゆえのプライド。ケイスケさんは「いずれはこういう気持ちとも折り合いをつけなければ」とも言った。結局、B型事業所はケイスケさんから利用を断り、A型事業所はケイスケさんの作業スピードが遅すぎるとして事業所のほうから断られたという。

今すぐに生活に困るわけではない。しかし、いずれは母親の年金には頼れなくなるだろう。翻訳の仕事だっていつまであるかわからない。非正規雇用でも就労支援施設でも働けないもどかしさや不安について、ケイスケさんは「オールのないボートに乗っているようなもの。そしてそのボートは近い将来、滝つぼに落ちることがわかっています」と表現した。

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