「働き口がない」早稲田院卒55歳男性のジレンマ 美しい文章を操る能力と「振る舞い」のギャップ

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大学院修了後は自身の専門分野とは違うものの、台湾の大学で日本語を教える専任教員の仕事を得る。しかし、ここでも職場での評価は厳しかった。ケイスケさんにとっては文法を体系的に教えることが難しかったという。学生からは「文法の細かい部分を教えてもらえない」「授業中に仏教の話をしないでほしい」などと酷評されることもあった。ここでは5年ほど勤めた後、任期途中でリストラされてしまう。

ケイスケさんが興味のあるものに傾ける情熱はすさまじい。台湾で仏教史の研究をするにあたり、現地で使われている繁体字を習得するため、青山霊園や谷中霊園に通い詰め、漢文で書かれた墓誌を書き写した。一方で日本語を教えるノウハウを身に付けるための努力は十分ではなかったと、ケイスケさんは認める。「大学の近くに仏教関係の書籍を出版する会社があり、(空いている時間は)そこに通うようになりました。自分の好きな分野の付き合いに没頭してしまったんです」と打ち明ける。

ミスを連発し、仲間から暴言をあびた

帰国後は住職がいない無住寺院の管理人になろうと、所定の寺院で修行を行ったものの、体を使う作業が多いゆえにミスを連発。仏前に備えるお膳を落としたり、ほうきを使うときの力加減がわからず、庭の落ち葉だけでなく砂利まで集めてしまったり。自分の子どもほど年齢の離れた修行仲間からは「のろま」「クズ」「殺すぞ」といった暴言をあびた。

修行は終えたものの、管理人になることは断念。このとき上司に当たる「道場長」から勧められて精神科を受診したところ、自閉スペクトラム症(ASD)と診断された。

取材
取材に応じた理由を「私みたいになってほしくなかったから」と語る一方で、「自分にはきらりと光る何かがあると思っています」とも。日々、気持ちは揺れ動いているようにも見えた(筆者撮影)

ここ数年の収入は、台湾の宗教法人から依頼をされた書籍を毎年数冊ずつ日本語に翻訳することで年間約100万円の報酬を得ているほか、障害年金が毎月約7万円。加えて同居している母親の年金が同15万円ほどあるという。

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