元米任天堂社長と岩田聡氏との知られざる友情 病室で話した任天堂の将来を左右するゲーム機

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「私のガンが再発したんだよ」

私はショックだった。確かに岩田氏は前回の手術と病気との闘いで体重が落ちていたものの、変わらず精力的だった。ほんの数日前、彼は任天堂がモバイルゲーム市場に参入するための大々的な投資を発表したばかりだ。

ここまでの状況からいっても、彼がガンに打ち勝ったことが窺えた。そういうことだったのか。直接話すために私を京都に特別に呼び戻したのだと知り、不安を募らせた私は、彼の話す一言ひとことに集中して耳を傾けた。

私たちは彼の病状や今後の治療についてしばらく語り合った。岩田氏はこれから試そうという先端医療について詳しく話してくれた。ハイテク治療の他にも、奥さんが食事の足しにと特製のジュースとプロテインの飲み物を、朝と昼に作ってくれるそうだ。治療の助けになるのなら、どんな小さなことでも選択肢に加えたいようだった。

任天堂の「将来」を左右するゲーム機

しばらくして会話のトーンは変わり、岩田氏がこう言った。「レジー、病気のことは、私が君に京都に来てほしかった理由の1つにすぎない。今の話もそうだが、他にも話し合いたいことがある。我が社の新システムの発売が迫っているから、これについて、話し合いたい。君に初期バージョンのゲームと、手元の試作品を試してもらって感想を聞きたい。プランニングに取り組まないと。なんせ任天堂の将来を左右するゲーム機だからね」

このように話題を変えるのは、岩田氏にとってはいつものことだ。彼は自分のことよりもビジネスを優先する。きっと彼の中では、自分の個人的な状況を話したのだから、今度はビジネスについて話し合う時間だと割り切れているのだろう。

せっかく私が日本に来たのだからと、私たちは一連のミーティングを開いて、後にNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)として知られる、ゲーム機の詳細について話し合った。

これらのミーティングはすべてビジネス関連だが、岩田氏と2人でランチを取ったり、夜遅くにミーティングが終わってホテルに戻ったりする際は、友人である彼の病気のことが私の脳裏をよぎるのだった。

レジー・フィサメィ アメリカ任天堂元社長兼COO

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Reggie Fils-Aimé

任天堂の最大子会社、アメリカ任天堂(Nintendo of America:NOA)の元社長兼COO(最高執行責任者)。ハイチ移民の子として生まれ、幼少期はブロンクスで育つ。奨学金でコーネル大学に進学し、P&Gのマーケターとしてキャリアをスタートさせる。その後、ペプシコ、VH1などを渡り歩き、2003年、アメリカ任天堂に入社。2006年、社長兼COOに就任。2016年、任天堂本社の執行役員に任命される。アメリカ、カナダ、ラテンアメリカにおける任天堂の活動すべてに関わった。ニンテンドーDS、Wii、ニンテンドー3DS、Wii U、Nintendo Switchを世界の市場に送り出した。2019年に任天堂を退社し、現在は、次世代のビジネスリーダーの育成に精力を注いでいる。

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