こうした偏執性の妄想が起こるのは、欠陥のある理論が原因ではなく、日常の経験の間違った認識や解釈が原因だと考えられている。偏執性妄想を患う人は、存在しない物音(とくに声や人)を見聞きしたり、よくある偶然(スーパーマーケットで同じ人に会う、家の中で同じ音を聞くなど)が、自分に関係する重要なことだと思い込んだりする。
精神疾患を患うとこうした体験が起こりやすくなり、それが本当で重要な考えだと思い込むと、そうした妄想的な説明がより理にかなったものに感じられるようになる。
私たちの思い込みがもっとも危険をはらむのは、思い込んでいると気づいていないときだ。そうした隠れた思い込みによって、意思決定力がゆがんでしまうことがある。
2022年2月24日、ロシアはウクライナに対して戦争をしかけた。それまでロシアは軍備を増強し、軍事演習を行い、侵攻を示唆する政治的措置を取っており、アメリカ政府は何カ月も前から侵攻が起きることを公然と予測していた。にもかかわらず、世界中の人々や政府は侵攻のニュースを知ると衝撃を覚えた。ロシアとウクライナでさえ、国民の大半はウラジーミル・プーチンがそのような命令を下すとは思っていなかった。
実際、2月24日以前には誰も避難しなかったが、侵攻後100日間で650万人が国外に避難した。起きている出来事を最初は誰も信じなかったという事実は、人々が無意識のうちに「ロシアは威嚇することはあっても実際に武力行使することはない」と思い込んでいたことを示している。
高い買い物、契約、投資に踏み切る前や、結論を出す前に、「自分はどう思っているか」と自問しよう。
当てはまる思い込みを明らかにして、あくまでも「一時的な想定」としてとらえ直すことが、自分の判断がもろい基盤の上にあることを適切に判断する、唯一の方法である。
「あの人がだますなんて信じられない」
私たちの世界観は、何らかの考えに対する思い込みをしているときと同じように、他人に対する思い込みをしているときにも大きく変わることがある。「信頼」という概念は、人が詐欺に引っかかる原因の説明として用いられがちだ。