中村:人を助けられると思って医師を志したけれど、現実は違っていた。病気はそう簡単には治らないということに衝撃を受けたんです。
稲垣:病気はそう簡単に治らない、ですよね。確かに。
中村:そうなんです。完全に治った!といえる病気は意外と少ないんです。そして病院に入院すると、いろんな検査を受けることになりますが、基本的に1人です。病気の原因を突き止めて治療するためには必要なことなんですけど、1人でつらい検査に耐える方をたくさん見てきました。
また、当時は終末期で呼吸が止まった場合でも、ほぼ全例、「ご家族は外でお待ちください」と、心臓マッサージや人工呼吸をする心肺蘇生を30分程度頑張っていました。でも、息を吹き返すことは難しく、処置が終わったあとで、家族は呼ばれて病室に戻ります。
稲垣:病院としては、最後まで「ベスト」を尽くさなければいけない。
中村:でも、これだと亡くなる瞬間に患者さんは家族と一緒にいることができません。こうした病院での医療に疑問を抱いていたときに、訪問診療の現場を見学したら、患者さんが自宅で治療を受けながら普通に生活し、家族に見送られながら最期を迎えていました。その姿に感動して、そういう仕事がしたいと思ったのがきっかけです。
「幸せな最期って何だろう」って
稲垣:いいお話ですね。在宅医になられる前から“幸せな最期”について考えていたのですか?
中村:ひたすら仕事をしていた時期に母を病気で亡くし、はじめて自分の人生と向き合いました。自分のことを考えるうちに、患者さんにとっての人生って何だろう、幸せな最期って何だろうって考えるようになっていきました。
稲垣さんが、モノやお金を媒介しない幸せを見つけるにいたったきっかけは何だったのでしょう。