「迷ったら、知っているほうを選ぶ」のは、人間の普遍的心理だ。選挙なら有名なほう、知っているほうの候補者。商品なら売れているものが定番。こうした選び方をしてしまうのは、「親近性」が私たちの判断に大きな影響を及ぼしているからである。
親近性の心理を利用しているのは、なにも企業だけでない。政治家ももちろんそうだが、悪徳詐欺師も同じなのだ。ダニエル・シモンズ、クリストファー・チャブリス両心理学者は、最新刊『全員“カモ”』で安易に「知っているほうを選ぶ」ことに警鐘を鳴らしている。親近性だけで選んでしまうと、思ってもみなかった悲劇が待っているかもしれない――。
有名だから親近感が増す不思議な心理
オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』の登場人物ヘンリー卿の名言がある。
「話題にされるより悪いことが世界に1つだけある。それは話題にされないことだ」
ワイルドの着眼点は鋭い。評判になれば親近感は増す。
私たちは、その親近感がもともとネガティブな情報に根ざしたものだということを忘れると、ポジティブな合図ととらえる傾向がある。それゆえ、「どんな評判でもよい評判」という格言がある。
一般に、私たちは無名の人よりも有名人の名前を知っている。だから、個人的にその人を知らないのに名前を知っていれば、有名人だと推測してもおかしくない。
事実、名前への親近感が増すだけでその名前を選ぶ可能性は高まる。政治学者シンディ・カムとエリザベス・ゼクマイスターは、被験者がマイク・ウィリアムズとベン・グリフィンという架空の候補者2人のどちらを相対的に選ぶか比較した。
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