認知心理学者ゲルト・ギーゲレンツァーによれば、「再認ヒューリスティック」とは、状況がどうであれ、2つの選択肢のうちいずれを選ぶかを決めるときに直感的に働く原則のことである。この原則は単純に「迷ったら、知っているほうを選べ」と導く。
企業が同業他社のやり口を真似る事情
ニューヨーク市にはかつて「フェイマス・オリジナル・レイズ・ピザ」という名のレストランが何十軒もあったが、どの店もほかの店と関係がなかった。企業はなじみのある配色、書体、そのほかの「トレードドレス〔商品、店舗、サービスなどの全体的な外観の特徴を指す〕」の要素を採用し、既知のものを探す消費者の注目を引こうとする。
たとえば、ペンシルベニア州中部では、波型ポテトチップスの地元ブランド各社が、競合相手であるトップ企業のラッフルズのパッケージによく似た袋で販売している。
親近性と類似性が信頼の証しとなり、私たちの判断に大きな影響を及ぼすことは珍しくない。それゆえ企業は多額を投じて、自社のブランドが社会の認識を高めることに特化した広告を制作する。
1980年代に誕生した、日産自動車の海外市場向け自動車ブランド、インフィニティが、1台も自動車が登場しないテレビコマーシャルを流したのは有名な話である。実際の商品を紹介する前に純粋にブランド名を売り込んで親近性を高めるのが狙いだった。
誰が何を言ったか、あるいは何をしたかを目隠しすれば、私たちは、携わった本人を一時的に異化できる。この手法を使えば、イデオロギーというバイアスを外し、親近感や忠誠心に左右されることなく、ありのままを評価できる。これを試してみると、往々にして、実際の選択は、自分が思い込んでいたほど好みの候補者や政党と一致しないことがわかる。
親近性が徐々に信頼へと変わっていく現象は興味深い。テレビニュース番組の人気メインキャスターには、年間何百万ドルものギャラが支払われる。彼ら自身が「ブランド」であり、その日の見出しを飾るに相当する一般的なニュースを、「とにかくお気に入りのキャスターから聞きたい」と思う視聴者を引きつけて離さないからだ。