年収1500万が中途障害で暗転「非正規雇用」の現実 58歳男性「何もできない人」と見なされる苦悩

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濱田さんが「ちゃんと働きたい」と訴えると、ようやく業務が割り振られた。ただ、障害への無理解も感じた。例えば、大量の書類を運ぶように指示されても、濱田さんは持てない。「できない」と言うと、「業務をより好みしている」と受け止められてしまう。心理的に落ち込み、約3カ月で退職した。

かつての経験を生かそうと、営業職の求人を探した。だが、障害者枠では見つからない。一般枠での応募も考えたが、それで採用されると、障害への合理的配慮を受けられなくなる懸念があった。濱田さんは低気圧の日に体調を崩しがちで、通院が必要になる。急な欠勤を認めてくれる職場でなければ、働くのは難しい。

結局、事務職で貿易やコンサルなどの会社を転々とした。この間の年間最高収入は約260万円にとどまる。濱田さんは「戦力になれる自信はあったのに、社会は中途障害者に冷たいなと感じた」と振り返る。

対話で関係性築きやりがいも

1カ所だけ、やりがいを感じられる職場もあった。2016年から契約社員として3年間在籍した種苗メーカー、サカタのタネだ。造園を担当する部署(現在は分社化し、サカタのタネグリーンサービス〈GS〉)に配属された。

当時の上司だった富張公章・現サカタのタネGS常務取締役は、「入ってきたばかりの時は正直、どう接したらいいのかわからなかった」と打ち明ける。トラブルを避けるため、最初の半年間は当たり障りのない、簡単な軽作業ばかりを頼んでいた。

濱田さんもフラストレーションをためていたのだろう。怒りっぽくなり、計20人ほどの部署内で腫れ物のように扱われていた。転機となったのは、2人で酒を飲みに行った際、濱田さんが「障害者でも働ける。自分の価値を認めてほしい」と直談判したことだった。富張さんは「それなら会社に『欲しい』と思われる人材にならなきゃいけない」と返答。腹を割って話し合い、富張さんは濱田さんの半生や悔しさを知った。

部署内では各々が自分の抱える案件を管理し、どの施工がどこまで進んでいるのかを俯瞰する手段がなかった。改善案を求めると、濱田さんはエクセルで工程を管理する表を作成。そのうち、部内の全員が濱田さんに情報を上げ、進捗状況を一元化するようになった。

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