若紫 運命の出会い、運命の密会
無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。
この機会を逃してしまったら
いったいどうしたらいいものか、と光君はあれこれ考えをめぐらせる。世間に知られたらなんと好色な、と思われるに違いない。せめてあの姫君が男女のことを理解するほどの年齢だったなら、情が通い合ったのだろうと世間も思うだろうし、そうしたことならよくあるのに。それに、連れ出してしまった後で兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)に知られたら、こちらも恰好がつかない、言い訳も立たないことだろう。けれども、それでこの機会を逃してしまったら悔やんでも悔やみ切れない……。そして明け方、まだ暗いうちに光君は左大臣家を出ることにした。女君はいつも通り気を許すことなく、不機嫌である。
「二条院に、どうしても片づけなければならない用事を残してきたことを思い出しました。終わったらすぐに戻ってきます」と光君は女君に言って出かけたので、お付きの女房たちも気づかないのだった。
光君は自分の部屋で直衣に着替え、惟光だけを馬に乗せて出発した。
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