「MMT」はどうして多くの経済学者に嫌われるのか 「政府」の存在を大前提とする理論の革新性

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対するMMTは、「貨幣の本質は発行者の債務証書であり、そこで約束された貨幣保有者にとっての債権こそが貨幣の価値を裏付けている」という「債権貨幣論」に依拠している(MMTの貨幣理論を示すcredit theory of moneyは「信用貨幣論」と訳されることが多いものの、「信用貨幣」は「本来の貨幣との交換が約束された代用貨幣」という意味の商品貨幣論的な用語であり、訳語として適当ではないと考えられることから、ここでは「債権貨幣論」としている)。

例えば、銀行預金は、政府部門が発行する貨幣(中央銀行券や硬貨といった現金)との交換が約束された債権貨幣である。

そして、MMTによれば、政府は、あるものを(納税を典型とした)自らに対する支払いの手段に指定する、すなわちそれに「政府に対する支払債務を解消できるという債権価値」を付与することによって、貨幣として通用させることができる。

これは、元々はドイツ歴史学派の経済学者ゲオルク・フリードリヒ・クナップが20世紀初頭に提唱した「表券主義」と呼ばれる貨幣理論である。

表券主義という貨幣理論

表券主義によれば、素材価値の乏しい法定不換貨幣が通用する理由を矛盾なく説明することができる。また、納税などの商品経済に属さない行為によって貨幣の成立を説明するため、物々交換経済がかつて行われていたというフィクションを前提とする必要もない。

表券主義を実証した社会実験とも言えるのが、近代ヨーロッパ諸国のアフリカ植民地における経験である。当時の植民地政府は、本国通貨や植民地政府自身が発行する通貨を支払手段とする人頭税を課すことによって、当該通貨建ての賃金を対価として現地の労働力を動員することに成功した。さらに、その副産物として、それまで商取引のない部族社会であったところに貨幣経済が成立したのである。

とはいえ、政府の統治・徴税基盤が弱い途上国のように、政府に対して支払う必然性が相対的に乏しければ、政府が指定したものが直ちに貨幣として通用するわけではない。これもまた表券主義の帰結であり、途上国において米ドルなどの外貨と自国通貨とを一定比率で交換する権利が約束されたり(固定為替相場制)、自国通貨の代わりに(より支払ニーズの高い)外貨が流通したりするのはそのためである。

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