『相棒』ただの刑事ドラマを超えた円熟の魅力 杉下右京の「やさしさ」と登場人物の「その後」

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その人気の理由は、やはりまずは刑事ドラマとしての安定感だろう。

本格推理あり社会派あり、しみじみと感動する話ありコミカルな話あり、さらには先週からの続編である今日の最終回のように政界が絡んだスケールの大きな話もありといった多彩な事件に右京と薫ら相棒が敢然と立ち向かう。そのスリルとサスペンス、明かされる意外な真実が視聴者を惹きつける要因だ。

だが長年人気を保ってきた理由はそれだけではない。『相棒』には群像劇としての際立った面白さがある。これほどキャラクターの宝庫と言うにふさわしいドラマは、ほかにあまり思い当たらない。

一方には、『相棒』が警察の内情を描く「警察ドラマ」でもあることから登場する警察関係者たちがいる。

一昔前の刑事ドラマだと、たとえば捜査一課が舞台ならそこに所属する刑事くらいしか出てこなかったが、『相棒』では警視庁の幹部、さらには警察庁の人間なども多数登場する。

すでに劇中で亡くなってしまったが、岸部一徳演じる「小野田官房長」こと小野田公顕などは、いまでもファンのあいだで根強い人気を誇る。ほかにも石坂浩二演じる甲斐峯秋、仲間由紀恵演じる社美彌子、杉本哲太演じる衣笠藤治、神保悟志演じる大河内春樹などがいる。

また特命係の周辺では、捜査一課の伊丹憲一(川原和久)、芹沢慶二(山中崇史)、出雲麗音(篠原ゆき子)、組織犯罪対策部の角田六郎(山西惇)、鑑識課の益子桑栄(田中隆三)らがいる。

さらに刑事部長の内村完爾(片桐竜次)、刑事部参事官の中園照生(小野了)、現在は内閣情報調査室の青木年男(浅利陽介)などもおなじみだろう。元鑑識課の米沢守(六角精児)もいまだに人気が高い。

“刑事ドラマを超えた刑事ドラマ”へ

そしてもう一方で、歴代の相棒たちはもちろん、薫の妻で現在はフリーライターの亀山美和子(鈴木砂羽)のように、右京にとって個人的にも身近な人物たちがいる。ここまでみてきたように、そちらの面の群像劇という点で、season22の特に後半は見どころが多かった。

刑事ドラマでは、レギュラー出演する刑事であっても一度退場するとそれっきりか、めったに再登場することはない。

だが『相棒』は別だ。たとえ一度物語の舞台から姿を消した登場人物であっても、亀山薫が年月を経て復帰したように「その後」がある。そして今シーズンは、ゆかりの深いさまざまな登場人物の「その後」を描く人間ドラマとしての円熟味がいっそう増した。

出会いと別れだけでなく、思わぬかたちでの再会もある。それが人生の妙味というものだろう。そんな人間ドラマとしての魅力をさらに加え、“刑事ドラマを超えた刑事ドラマ”となった『相棒』の行き着く先を見届けたい。そんな感慨を抱いたseason22だった。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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