『相棒』ただの刑事ドラマを超えた円熟の魅力 杉下右京の「やさしさ」と登場人物の「その後」
『相棒』のseason22が3月13日の放送で最終話を迎える。これまでと同様、毎回テイストの異なる話で楽しませてくれたことは変わらない。だが久しく出てきていない人物たちをめぐる物語が動き始め、水谷豊が演じる杉下右京にもこれまでになかったような振る舞いが見られるなど目を引く変化もあった。『相棒』にいまなにが起こりつつあるのだろうか?
※以下、これまでに放送された分のネタバレがあります。ご注意ください。
少年を抱きしめた杉下右京
昨年秋からスタートしたseason22をここまで見てきて思うのは、『相棒』がますます“刑事ドラマを超えた刑事ドラマ”になってきたということだ。
犯人を逮捕して終わりではなく、その向こう側にあるもの、さまざまな人生模様をより重点的に描くようになってきた。特に今シーズンの後半にかけて、その印象が強い。
たとえば、第18話「インビジブル〜爆弾テロ!最後のゲーム」ではこんな場面があった。
連続爆弾事件の犯人として自首してきた少年(中川翼)。彼と右京はチェスの好敵手として顔見知りだ。2人は取調室で向かい合う。少年は、生後すぐに捨てられ児童養護施設で育った身の上、そしてこれまで受けてきたいじめや差別について語りだす。
じっと耳を傾ける右京。すると少年は、隠し持っていた拳銃を取り出し自殺しようとする。そばにいる相棒の亀山薫(寺脇康文)たちに緊張が走る。
だが右京はまったく動じず、銃を構える少年に「君の未来に、希望はあります」と言いながら歩み寄る。少年に付けられた名は「希望」と書いて「のぞみ」。少年はそれでも銃を下ろさない。しかし右京は「希望は、あります」と繰り返しながら近づき、最後は少年を固く抱きしめる。
杉下右京の「やさしさ」が出た場面である。もちろん、これまで右京にやさしさが見られなかったわけではない。ただそういう場合は、冷静沈着ななかにさりげなく顔がのぞくような種類のやさしさだった。
あるいは、まずはよく見せるように頬を震わせながら静かに激高したかもしれない。だが少年を抱きしめ、「希望は……あるんです」と何度も語りかける右京は、ただただやさしい。こんな杉下右京の姿は、ほとんど記憶にない。
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