今こそ日本は理想を掲げよ タカラトミー創業者・佐藤安太氏④

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さとう・やすた 1924年生まれ。福島県いわき市出身。米沢高専(現山形大学工学部)卒業後、タカラ(現タカラトミー)を創業。だっこちゃん、リカちゃん人形、チョロQなど、多くのヒット商品を生む。2010年、山形大学大学院理工学研究科で工学博士号取得。

私は人生の大半をおもちゃ作りにささげてきました。この50年に及ぶ経営の経験を行政に応用できないだろうかと考え、「国家経営学」を提唱しています。

2011年2月に韓国海洋大学校で「アジア工学教育会議」が開催されました。そこに山形大学の学生を6人連れていき、中国や韓国の学生と、1週間一緒に勉強しました。そこでは各自がライフマネジメントプランを作って発表し合ったのですが、国は違っても人は同じ。すぐに仲良くなって、発表が終わった後には皆で飲み会やカラオケをして盛り上がりました。しかし、このような中国や韓国の学生との交流を通じて、それぞれの国が日本と違った国家戦略を持っていることにも気づかされたのです。特に感じたのは、日本には産・学・官が一体となった国家戦略がないということでした。

そこで脳裏をよぎったのは、経営学の権威であるピーター・ドラッカーの「国という組織体には民間経営にあるような機能がない」という言葉。このような民間の経営学を集約したシステム思考技術を用いて、日本国家が直面している問題を解決できないかと考えたのです。

国に必要なのは経営学の視点

現在、日本の多くの公共機関は、公務員によって運営されています。公務員の体制にはもちろんいい面もありますが、責任者不在、採算管理の欠如、予算消化の目的化、チェック機能の欠落といった問題が起きているのも事実です。そこで、自分がタカラの経営者として身をもって経験してきた経営の知見を、「公務員経営」が抱える問題点を解決する一助にできれば、と思いました。経営の経験とともに、学問も修めた私にしかできない責務だと考えています。

そして国のあり方について、私は次のように考えています。

企業が経営方針を掲げるように、どういう国を目指すのか、まずビジョンを提示することが必要です。それには、人は人として理想を持って生きることが大事であるように、理想の国を作ろうというビジョンを掲げていけばよいと思います。そのために世界中の技術や英知を学んでいく。国がビジョンを示せば、若者も将来に希望を持つことができます。

私は、人づくり、国づくりにおいて自分ができることを精いっぱいやっていくつもりです。人生で大事なのは、最後の時期をどう過ごすかということ。過去の失敗は、その後の人生の栄養となります。逆に、どんなに成功したとしても、それに慢心したら台なしになる。「終わりよければすべてよし」なんです。

週刊東洋経済編集部
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