失敗の経験は後で必ず役立つ タカラトミー創業者・佐藤安太氏③

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さとう・やすた 1924年生まれ。福島県いわき市出身。米沢高専(現山形大学工学部)卒業後、タカラ(現タカラトミー)を創業。だっこちゃん、リカちゃん人形、チョロQなど、多くのヒット商品を生む。2010年、山形大学大学院理工学研究科で工学博士号取得。

私は、福島県の山村で四人の姉と兄一人がいる二男として生まれ、中学からは親元を離れて寮生活、下宿生活を30歳で結婚するまで続けました。早くから自立を余儀なくされたことで、たいへんな思いもたくさんしました。しかし、それは逆に運がよかったと今では思います。

親に頼ることなく生活をしていた経験から、何事も自分の頭で判断し、物事を慎重にチェックする性格が培われていたのです。そのため、タカラの創業経営者として、50年近くにわたって用心深い経営をすることができました。子どもの頃の経験が、経営手腕を磨くことに役立ったということでしょう。

スマイルズの『自助論』に、「逆境の中でこそ若芽は強く伸びる」という言葉があります。今の日本の若者は、生活が格段に楽になったためか、自立していない人が多い。快適な生活に安住するのではなく、自立し、大きな志を持ってチャレンジすることが大事なのです。たとえうまくいかないことがあっても、その失敗の経験は、必ず後になって役立つはずです。

経営に重要な、原理原則を守るということ

「敗者は勝利者でもある」という考え方もあります。競争では勝者と敗者が必ず生まれる。しかし、勝った者はもちろん、敗れた者にも、それを教訓にすることができれば次の勝利が待っているのです。

最近はともすれば競争が悪とされがちですが、それは一度競争に負けたらダメになるという間違った考えに基づいたものなのではないでしょうか。

経営に当たって重要なことは、原理原則を守るということです。そこから逸脱すると、会社は悪い方向に行ってしまいます。

私自身も、経営者時代に赤字を出したことがあります。だっこちゃんブームが去った後には、莫大な在庫を抱えてしまって倒産寸前の状況にもなりました。経営会議で皆が反対したことを断行して、うまくいかなかったこともあります。

しかし、一回赤字を出したからといって、人生の敗北者ではないんです。米国の起業家は、倒産を経験したとしても、それで再起できないということはない。倒産を糧にしてその後成功すれば、「あれは勉強になった」で済むんです。

また、経営者としては、創造性の伝承や事業の継承も大事なことです。生き方や仕事の進め方など、後継者との「共通知」を構築していかなくてはいけません。主催する「佐藤安太実践経営塾」を通じて、このような経験も伝えています。

 

週刊東洋経済編集部
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